【ボウイングは全身運動】腕の重さを支える秘密……なぜ「歩きながらひいてみなさい」は効き目があるのか?

カン違い?「ボウイングは全身運動」

「ボウイングは全身運動だよ!」というのは、間違ってません。むしろ、正しいんです。

このとき大事なのが、手や腕の動きがどうやって全身の協力を得ているかを知ることです。逆に、邪魔しあう可能性があるかもしれないと知ることも大切にしておきましょう。

この「腕と全身の協調」を理解するカギは、「腕と胴体のつながりかた」を理解することにあります。

今回は、腕と胴体のつながり方について、「ええっ?!そうだったのか!」と、私自身が驚いたことを中心に紹介します。


violin

腕の重さを支える仕組みが面白い!

 わたしたちは、腕の重さをどうやって支えているんでしょうか?このことを考えてみましょう。

 わたしたち人間は、脊椎動物の仲間です。脊椎は、わたしたちのあらゆる活動を支えてくれるようにできています。

 わたしたちが、バイオリンを演奏するときにつかう腕も、脊椎とつながっています。

 これが面白いところなんですが、腕と脊椎は、直接つながっているわけではありません。

 腕は、肩関節によって、胸郭に連結しています。

腕のカギ……肩関節と胸郭

ここで、肩関節と胸郭について、説明しておきましょう。

肩関節
肩関節には、3つの関節が含まれています。3つの関節には、それぞれ名前があります。腕に近い方から
・肩甲上腕関節(けんこう-じょうわん かんせつ)
・肩鎖関節(けん-さ かんせつ)
・胸鎖関節(きょう-さ かんせつ)
です。
胸郭
胸郭は、カラダの後ろ側にある胸椎(背骨の一部)と、前側にある胸骨・肋骨で構成されます。

豆知識:関節の名前にはルールがある

 難しい言葉が並びました。でも、安心して下さい。関節の名前というのは簡単なルールでつけられているんです。関節の名前というのは、関節を形作る骨たちの名前を組み合わせて、名付けられているだけなんです。

 この関節の命名ルールは、おぼえておくと便利ですよ。

 たとえば、「肩甲上腕関節」というのは、肩甲骨と上腕骨がふれあってできている関節です。同じように、「肩鎖関節」は、肩甲骨と鎖骨が触れ合っている関節のことですし、「胸鎖関節」は、胸骨と鎖骨がふれあっている関節のことです。

骨・関節の名前でたどってみよう

 ここで、「腕が、どうやって脊椎から生えているか」を、骨や関節の名前を使いながら、たどってみましょう。

脊椎
(胸椎は、このなかに含まれる)

胸郭
(胸椎→肋骨→胸骨)

肩関節
(胸鎖関節:胸骨→鎖骨)
(肩鎖関節:鎖骨→肩甲骨)
(肩甲上腕関節:肩甲骨→上腕骨)

肘関節(上腕骨→尺骨と橈骨)

手関節と指の関節

脊椎から指先までのつながりを、このように整理してみました。

 ここで、おもしろいのが、腕の仕組みは、いちど胸骨が全部引き受けているということです。胸骨から、左右の肋骨(第1〜第10)を介して、胸椎にまで至っているんですね。

 しかも、肋骨と胸椎のつながり方も興味深いものです。1本の肋骨は、基本的には、2つの胸椎と計3箇所で接しています。左右1対の肋骨は、2つの胸椎と計6箇所もの関節面を持っているんです。

 ここまでみてきたように、腕の重さを支える仕組み――別の言い方をするなら、腕の動きを支える仕組み――というのは、このような複雑なものなのですね。

 左右の腕は、それぞれ左右の肩甲骨につながって鎖骨を通って、胸の前にある胸骨で合流します。胸骨から伝わる重さは、左右それぞれの肋骨に分配され、しかも上下(第1から第10肋骨)にも分配されたうえで、胸椎(第1〜第10のそれぞれ)に伝わります。

 このように、左右の腕の重さ・動きは、複雑な分配と合流によって、脊椎という体全体を支える仕組みで受け止めるようになっています。

 なぜ、こんなにも複雑な仕組みになっているかは、わかりません。ですが、この複雑な仕組みのおかげで、立っていても座っていても、歩きながらでも、バイオリンを演奏することができるのです。

「歩きながらひきなさい」の真意とは?

 立っていても、座っていても、バイオリンを演奏することはできます。寝転んでいたって演奏できます(ほんとうですよ!)

 いつも同じ姿勢でバイオリンを演奏していると、このことには気づきにくくなります。

 「歩きながら、ひいてごらんなさい」というアドバイスが有効なのは、歩くことによって、脊椎のもつ【全身の協調作用】が、ボウイングをはじめとする演奏のための運動にも働くからなのでしょうね。

腕を支える仕組みを学ぶには?

ところで、体の仕組みを学ぶときに、役立つ方法があります。たとえば、次の3つです。苦手なものもあるかもしれませんが、どれでもひとつ試してみることをおすすめします。

  1. 言葉で説明してみましょう
  2. 絵を描いてみましょう
  3. 自分のカラダを触って確かめてみましょう

-体の仕組み・動きを考える