今回は肩の動きに関わる筋肉の話題です。前回は「腕は胴体からどう生えているのか」という疑問に始まって、腕と胴体のつながりかたを解剖学の知識を借りて、弦楽器の演奏に必要なだけ、ほんのちょっと学びました。
今回は、腕と胴体のつなぎ目とも言える「肩」を動かすための仕組み、特に筋肉が、どんなふうに働くのかを、少し深めに見てみます。なぜなら、肩の構造って複雑だからです。さて、肩を動かすための筋肉って、一体いくつあると思いますか?
前回かんたんに紹介したように、肩周辺の筋肉は、3つの働きをするグループに分けることができます。
これらの解剖学に関連した知識を弦楽器の演奏に役立てるためには、見出し部分だけでも読んでもらえればじゅうぶんです。ですが、詳しく知りたい人向けに、かなり細かい説明もしていきます。読んでいる途中でめんどくさくなったら、どんどん読み飛ばして、太い文字のところだけでも読んでみてくださいね。
肩を包む3つの筋肉群
肩周辺に着目すると、大きく言って3つのパーツが関係します。胴体・肩甲骨・上腕骨です。この3つのパーツを動かすための筋肉がたくさんありますが、次の3グループに分けて考えることができます。
- 肩甲骨側から上腕骨を動かす
- 肩甲骨を胴体側から位置制御する
- 上腕骨を胴体側から直接動かす
グループ1:肩甲骨側から上腕骨を動かす
この筋肉グループは、肩甲骨から生えていて上腕骨のあちこちへと伸びてへばりついています。ほとんどの弦楽器奏者が「腕を動かす」と言われたときに思い浮かべる筋肉グループがこれです。
外から触ったときに分かりやすいのが三角筋です。肩の前と横と後ろから生えていて、上腕骨へとつながっています。肩の多彩な運動のうち【内転】以外の全ての動きを作ることができます。
次に、ローテータ・カフと呼ばれる筋肉たちがあります。4つの筋肉があり、役割は、肩の関節をつなぎとめておくことです。もちろん、腕を動かす働きもできます。
ローテータ・カフと呼ばれる筋肉たち
- 棘上筋(きょくじょうきん)
- 【外転】のために働きます。上腕を真横に持ち上げるはたらきです。
- 棘下筋、小円筋(きょっかきん、しょうえんきん)
- 【外旋】のために働きます。互いに隣接していますが別の筋肉です。【外旋】とは上腕の長軸を中心に外側にまわす動きです。
- 肩甲下筋(けんこうかきん)
- 【内旋】と【内転】のために働きます。【内旋】とは上腕の長軸を中心に内側にまわす動きです。【内転】とは上腕を身体の中心のほうへ引きつける動きです。
肩周辺の関節の動き用語
- 簡単に説明しましょう。
- 外転(がいてん)
- 上腕を真横に持ち上げる動きです。
- 内転(ないてん)
- 上腕を身体の中心のほうへ引きつける動きです。
- 外旋(がいせん)
- 上腕の長軸を中心に外側にまわす動きです。
- 内旋(ないせん)
- 上腕の長軸を中心に内側にまわす動きです。
ここで体を動かしてみましょう!
この4つの動き、外旋・内旋、そして外転・内転を、実際にご自分の身体を動かして見ながら確認してみましょう。そのときに、いくつかの筋肉が縮んで、いくつかの筋肉は引き伸ばされているんだなということが感じられたら、それで充分です。
気をつけてくださいね、肩甲骨から生えている筋肉だけで上腕骨を動かすんですよ。ちょっと油断すると肩甲骨自体が動いてしまったり、首や背骨に力を入れて固めちゃったりします。動かそうとしている部分がどんなふうに動いているかが分かるように、丁寧に・繊細に動かしてみてください。ちょっとずつ、動かし方を変えてみることで、ひとつの動作に複数の筋肉が関わり合っているのが分かりやすくなると思います。
もうひとつの筋肉
- 大円筋(だいえんきん)
- 【内旋】と【内転】を受け持っています。ローテータ・カフには含まれていません。
ここで腕の動きアニメのご紹介
【ヴァイオリニストのための解剖学入門】アニメで見る・上肢(腕)の動き《大阪大学整形外科の研究成果に学ぶ》 | 弦楽器奏者に役立つ・カラダのやさしい使い方
僕の関心ごとは腕にあります。ですから、腕の動きについて良いヒントはないかと思っていたら、ありました。この動画はいいですよ。ガイコツのアニメ …
上腕のアニメ。肩も指も。
今回のまとめ
ここまで紹介してきた6つの筋肉は、肩甲骨に始まって上腕骨へとつながる筋肉たちです。腕を動かすときに力を発揮してくれますが、そのためには次に紹介する肩甲骨が適切な場所へと移動しながら支えてくれる必要があります。すごい連携プレーの上で、腕の活動は成り立っているんですね。
こうして、身体の一部分に注目していくと、つい全体のことを思い出し忘れてしまいます。楽器を演奏するときに、肩・腕は大活躍してくれますが、その動きを生み出す原動力はどこからやってくるのか、そして、なぜ演奏しようと思うのかといったことを思い出しつつ、腕の動きを応援していくことが大事だなと、僕は思うようにしています。
ちょっと長くなってきました。次回は「グループ2:肩甲骨を胴体側から位置制御する」についてお届けします。