今回から、「ボウイングが変わる」ということで、弦楽器演奏で見落としがちな股関節に着目していきます。
下半身をどうやって演奏に参加させられるのか、なぜ下半身が演奏に役に立つのかということを知っておくと、なにかと便利ですよ。
軽視されがちな股関節
ヴァイオリン・ヴィオラなど、肩載せ楽器奏者の場合は、ボウイング問題は、肩まわりのうごかしかたに着目するとほとんど解決します。楽器が肩・腕に乗っているからです。
チェロ・コントラバス・二胡などの場合は《腕の拡大解釈》が助けになります。楽器が大きかったり、楽器が足に触れたりすることから、演奏における下半身の扱い方が、ヴァイオリンなどに比べると重要視されているのでしょうね。
腕が床から生えてくる?!
もう一度書きますが、特にコントラバス・チェロ・二胡などの場合は、《腕の拡大解釈》が役に立ちます。腕を拡大解釈するというのは、《腕は胴体から生えている》と思っていたのだとしたら、《腕は床から生えている》と思ってみましょう!ということなんです。
もうちょっと細かく言うと、《床〜下肢〜胴体〜腕》が腕だと思ってみましょうということです。主要な関節を書いておくと、床に近い方から……足首、ひざ、股関節、脊椎、肩、腕……ここまでの全部が支えているから、手で弓を持っていられるんですね。
このように思い直してみることは、チェロやコントラバスに限らず、ヴァイオリン・ヴィオラを演奏するときでもボウイングやフィンガリングの助けになります。
胴体を動かすために股関節が役立つ!
例えば、コントラバスの立奏の場合は、立っているために、下肢全体のサポートを使いやすいかもしれません。チェロのように座奏するときでも、椅子の上で胴体を動けるようにすると弓が使いやすくなります。その胴体を動かすために、じつは股関節が使えるんです。このことが、ボウイングの助けになります。
股関節など、下半身の働きというのは、主に上半身を移動させることです。代表的なはたらきは、歩くことです。足を一歩前に踏み出すことで、腕を伸ばすだけでは届かないところにある食べ物にも、容易にアクセスできます。
これが下半身の威力です。下半身の威力を上半身に伝えるのが、股関節の働きです。逆に言うと、上半身のやりたい事のために下半身を活用しないなんてもったいないことです。どんどん下半身にも参加してもらいましょう!
楽器を演奏するときに私が使って役立っているアイデアは《楽器を構えるために、「下半身も演奏に参加しようよ」と招待する》です。リハーサルや本番で、立ったり座ったり、楽器を上げ下げするときに思い出すようにしています。
股関節への勘違いが上半身を固めてしまう
股関節の動かし方を勘違いしていると、胴体の姿勢制御が勘違いの補正をするために労力を割く必要が出てきます。その副作用として、広背筋だとか僧帽筋なんかが姿勢制御に駆りだされて、脊椎の位置を固定するついでに、首や肩を変な感じに固めてしまいます。
「肩のブログ記事その3」にかいたように、《腕を動かすために、胴体から生えている筋肉》があるから、胴体に関する誤解が、腕の動きを劣化させてしまうんですね。ということは、胴体の動きを改善すると、腕の動きがよくなります。椅子に座るなら、股関節のことを考えてみるのは大きなヒントです。
【ヴァイオリニストのための解剖学入門】腕に自由と強さを!(肩・その3) | 弦楽器奏者に役立つ・カラダのやさしい使い方
胴体は腕を動かせる
股関節を使うとこんなに便利!
私がレッスンしているときのことですが……小柄な中学生が、チェロのA線を演奏するときに、腕を伸ばしきっても弓の先まで使い切れない。しかも、弓毛と弦の接点が暴れてしまって音にならない。そのときに、胴体を前・上に動かして腕を根っこから全部動かすように提案したら、痛みも全部解決しました。
椅子に座っていて、胴体を動かすというときには、「股関節から動く、そのために、アタマが動けて、脊椎から繋がっている自分全体が、一つずつ全部ついてきてくれる」と思ってやっていることが、今の私にとって大きな助けになっています。
ヴァイオリニストもどんどん使おう股関節パワー
ところで、ヴァイオリニストには股関節は関係ないのかというと、関係ありまくりです。股関節が動けるようになると、胴体の姿勢制御に対して全身の筋力がうまいことシェアされます。
1日に何キロも歩けるスタミナを持った、人間の機動力の源である下半身を、楽器演奏にも取り込むことができたら素晴らしいことが起きそうですね。股関節を有効に使いましょう。次回は、股関節のことをもう少し詳しく探求していきます。