【新入生とのレッスン】30分で基本の総点検。先入観を打ち破る

2015/03/15

 去る水曜日。今年度の新入生との初めてのレッスン。中学生です。過去にどんな教材を使ってきたのかを見せてもらいました。これが一番早いですね。どんなレッスンを受けてきたのかを知るということは。

 事前に伝え聞いていたんですが、教本への書き込みの分量や、日付の書き込みから、先生の雰囲気も何となくわかります。オッケーになってるところには、もれなく日付とチェックマークが書かれていました。なるほど、こうやって日付を書き込むというのもいいかも知れないですね。(自分ではやったことがなかったので、新発見でした)

 さて、チューニング。家では機械を使ってやっているとのこと。チューナーの表示を見て合わせているそうです。今はそれでもいいということ、音を聞いて合わせられるような挑戦もしていきましょうという2点を伝えました。今日は、言うだけ言って、僕がチューニング。

開放弦をひこうとすれば、ほとんど分かる《カラダの使い方のレベル》

 ここで説明を挟みますね。なんでわざわざ「カラダの使い方のレベル」などと生意気な物言いを選んだかというと《生徒さんがどれだけ意識的に自分自身を使おうとしているか》という度合いを見極める、という意味を表したかったからです。そして、このレベルは意識的に磨けば磨くほど高まってゆきます。育てられる能力・技術なので「レベル」という言葉を使うことに弊害はないと思ったからです。

 さて、話を戻します。

 開放弦をひいてもらうことにしました。本当は楽器を手にしたとき、ヴァイオリンをカラダにのせようとするとき、弓を手にしたとき、弓をヴァイオリンに向かわせるとき……これらのときに、いろんな習慣が見えます。

 ここで「ちょっと待って!」と言って、僕が気づいたことをクドクド説明してしまうこともできます。しかし、初レッスンで音を聞く前からこちらの一方的とも受け取られかねない説明をしてしまうと、生徒さんを混乱させるだけです。僕のやりたいことは《ヴァイオリン演奏は楽しい。いろんな音を試していい。練習って楽しい》というアイデアを提案することなので、生徒さんの準備動作を止めずに音を出すことを始めてもらいました。

開放弦をひく動きを見る

 開放弦をひいてもらいます。最初は、リズムもなにもなく、ただヴァイオリンの音を出してみるということから。震え・カスレが目立ちます。指・手首・肘などを含めた腕全体がもともと持っている可動性を十分に使うことで解消できそうですし、音量も増大できそうです。

 体格的には全弓をくまなく使い切るだけの余裕はあります。おそらく、いままで使っていた4分の3サイズの楽器&弓のサイズが習慣として身についているからということも大きな影響のようです。

左腕は開放弦でも仕事があるよ

 意外に思われるかも知れませんが、特に仕事が無いように思える左手の使い方からも重要な情報を読み取ることができます。開放弦を弾いているときの左手にどんな仕事をさせているのかが、その人の左手技術のベースになってしまうからです。脅しているように聞こえるかも知れませんが、本当のことです。左手指に運動が必要ないからと言って、左腕に仕事が無いのではないからです。

 大事なのは、弦と弓の毛の関係を作るために、左腕をどんな意図で参加させているかです。どう考えて演奏しているかが、左手でどう楽器を支えているかに現れています。左腕全体の使い方も助言しました。手首の動かし方、指の添え方、それらをやりやすくするための肘の動かし方などなど。

開放弦をひきながら、下半身も仲間に入れる実験

 ここで、ちょっとした工夫を差し込みました。開放弦をひきながら、お辞儀。ぺこり。今度は、膝の屈伸。そうそう、膝だけじゃなく、股関節と足首も連動するんです。そして、開放弦を引きつつ右や左へカニ歩きしてみたり、仰け反ってみたり。さすがに面食らって引いちゃったみたい。

 「腕を動かすということは、腕以外を動かしちゃいけない」ということではなくて「全身で、腕が動きやすいように助けてもいい」というアイデアもありだよ、ということを言葉でも伝えておきました。

弓は動かせる。じゃあ……動かし方のバリエーションを増やそう!

 弓はだいたいまっすぐに使えているし、となりの弦を擦ってしまうようなこともないし、ボウイングの基本動作はもう技術として身につけていると言ってよさそうです。

 そこで、説明することにしました。弓の動かし方が音に与える影響について、です。駒のすぐそば・駒から徐々に離れて指板寄りへ、6段階くらいの使い分けはできるようになりますよという話。

 もうひとつは、弓を駒と平行にするか、ちょっと角度をずらすことで、弦を弓でこすりつつ駒寄りと指板寄りを自在に移動できるヨ、という話。

 これらは、上手な人ほど細かいレベルで使い分けています。「練習をしていくことで、意識的に使い分けられるようにしていきましょう」と話しました。動かすスピードも組み合わせられるよという話もチラッと見せつつしちゃいました。

左手の動き

音程を良くするための基本パターンを知ろう

 ヴァイオリンの場合、左手指の形(どの指をひらいて、どの指をくっつけるか、的な話題)は4パターンだけ。この4つが頻出で、あとは派生型・例外処理として扱っていいです。という話をしました。で、実際にふたりでそれぞれ楽器を手にして音程と指の形をチェック!

指を動かして音を変えるという練習、ただし音程は無視

 左手の基本形4種を確認したら、こんどは、その形のなかで「左手指を素早く動かして音を変えてみよう」「ただし、音程はメチャクチャでいいよ」という練習に移ってみました。

 最初は1音を1弓……ダウンで1指、アップで2指。次に2音を1弓……ダウンで1指〜2指、アップでも同じ。次に4音を1弓で……。そのつぎは、数えられなくていいからなるべくメチャクチャにパタパタひらひらフワフワ素早く。…で、4音、2音とゆっくりに戻す。てなことをしました。

音程と敏捷性

 どちらも左手指の訓練には欠かせないものです。音程を確認できるような持続音の長さを確保しつつ、しかし、ある音から別の音へと変えるという状態変化を反復練習する必要があります。最初のうちは隣り合う指同士で取り組むのが関係を把握しやすいと思います。ある程度音程と指の運動感覚に関連性が備わってきたら、指の組み合わせを複雑にしていきます。これがいわゆる「指の体操」です。

 音程では「指を指板に並べるときの幅を覚える」という言い方をしていますが、ちょっと不正確かも知れません。静的な状態とも言えますが、あくまでも動きかたを習得すると考えたほうが学習効果によい影響をもたらしやすいようです。指を指板に置きに行く動きを繰り返すことで習得するものだと思います。

 また,敏捷性を養うには、音程の許容範囲を寛大なものにすることも必要でしょう。素早く動かすために、単独の関節・筋肉に頼るのでなく、ほかの関節・筋肉の助けをどうすれば生かせるのかという発想で指導していくことも重要なことと思います。

 では、レッスンの続きに話を戻しましょう。

両手の連携〜左手の動きに右手も協力するというアイデアを注入成功!

 左手を素早く動かして音を変える練習の時のことです。音の数を増やしていったときに、音がひっくり返ることが気に入らない様子が見えました。わかりやすいしかめっ面でした。いいですね、素直で。

実験1・二人バヨリン(生徒さんは弓だけを動かす)

 左手指を動かすと、弦の振動が変わる。ゆえに、弓を持つ右手も影響を受けるということを理解してもらう必要がありました。そこでこんな実験をやりました。

 生徒さんが構えているヴァイオリンを、生徒さんが左手で支える代わりに先生が支えます。生徒さんはただヴァイオリンを鎖骨あたりで重さを引き受けているだけで良いです。そして、生徒さんには弓を持ってもらいます。

 生徒さんが開放弦をひきます。先生は、生徒さんがひいている弦のどこでもいいので、指で触れて音を変えます。何かの音程をとってもいいですし、ピチカートしてもいいですし、音がならないように邪魔してもいいですし、きれいなトリルをやってみたかったら自分が弦を触る動きのなかに生徒さんの弓の動きを招待するようなつもりでやってみるとうまくいくようになっていきます。

 あくまでも実験です。左手が弦に触ることで、右手で動かしている弓が一定の状態ではいられない、ということを生徒さんが理解すればオッケーです。

実験2・二人バヨリン(生徒さんは左手指を動かす)

 生徒さんには左手だけに専念してもらって、出てくる音を聞いてもらいます。

 先生はヴァイオリンの弓を持って弦を引きまくります。そして、生徒さんには指を好きなように動かしてもらいます。指の動きに影響を受けて邪魔されたりしますけど、それはそれでいいんです。

 ちょっと遊べたら、こんどは、先生が「どんな指の動きにも負けないくらいの力で弓を動かしまくる」という事をやってみます。生徒さんには、指の手応えの感想のほかにも音についての感想も聞いてみるといいと思います。違いが分かるように極端にやってみてもいいですね。

まとめ

 こうして、初回のレッスンが終了しました。初めは緊張していた生徒さんでしたが、いくつか実験と称する遊び・共同作業を行っていくなかで、ヴァイオリンはいろんな音が出るものなんだということを発見してもらえたようです。次回以降は、左手指の訓練も行いながら、これまでに取り組んだ楽曲を参考にしながら、新しい曲にも挑戦していくことにしました。楽しみです。

 こんなふうな心がけでレッスンをしています。「ヴァイオリンは好きなのに、先生の言うことが理解できなくて通うのやめちゃった」「一人で練習してもうまくならないのを何とかしたい」という方も応援します。

-レッスン復習ノート