「腕が動かしづらい」を助けてくれるモノの見方(構えのセルフケア入門セミナー誌上体験・その2)

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 ヴァイオリンを演奏するとき、腕が大活躍します。
 腕をいまよりももっとラクに動かすためには、正しい理解が必要です。

 その理解とは、自分自身に対する理解です。

 チェリストであるカザルスは、あるお弟子さんのはじめてのレッスンでこう言いました

 「あなたは自分のしていることをわかっていない」

バイオリン応援団☆いちろーたです。

 残念ながら、ヴァイオリニストの多くが技術を習得する過程のなかで、さまざまな練習を重ねた結果、肩周辺についての誤解をしてしまっています。
 肩こりや背中の痛み、時には指先のしびれの原因にさえなっていることもあるでしょう。

 腕の動かし方を見つめ直すときには、胴体と腕との関係を見直すことをおすすめします。

 関係を見直すといっても、胴体や腕の見た目は人それぞれに違います。
 腕の長さや太さ、筋肉と脂肪の割合も違います。胴体の肉付きだって人によって違います。

 ではどうやって見直したらいいのでしょうか。
 ここで役立つのが解剖学です。

 解剖学は、ヒトなら誰にでも共通する「身体の仕組み」を体系的にまとめ上げているものです。
 動きまわるとき、何がどう動いて実現しているのかをいい表す言葉が、まとめられています。

レッスンでは骨格模型を使った解説もします

 骨や筋肉というものがあるということ。
 骨と骨が関節を作っていて、身体のカタチが変えられること。
 筋肉は骨にくっついていて、縮むことで関節の角度を変える力を発揮できること。

 こうした、骨や筋肉、関節のひとつひとつに名前をつけ、関節の動き方にも名前をつけてあります。

 「手を挙げてください」と言われた時、わたしたちの一人ひとりは、たしかに「手を挙げ」ます。
 しかし、そのときにどの関節が最初に動いて、どの関節が最後まで動いていたかということは、少しずつ違うことでしょう。

 解剖学の言葉を使うと、その違いを的確に言い表すことができます。
 つまり、動きの観察や分析を助けてくれるボキャブラリーを提供してくれるのです。

 これが、弦楽器奏者――とりわけ指導する立場にあるひとたち――が解剖学を学ぶべき意義です。

 解剖学の知識として最も役立つことの1つは、骨格についての知識です。

 《どこに、どんなカタチの骨があるのか》
 《その骨は、どんな関節を作っているのか》
 《その関節を使うと、どんな動きを作ることができるのか》
 《こうしたことが、演奏にどう影響するのか》

 こうした観点で解剖学を学ぶことで、弦楽器演奏のテクニックを自分で観察分析し、必要な練習メニューを組み立て、磨き上げることができるようになります。

 たとえば、ある人がポジション移動で《肘が中に入れられない》という悩みを抱えて苦しんでいる時に、次のような探求をすることができるようになります。

●肩について

《誤解:腕は肋骨から生えている》

 腕は肋骨から生えている……これは不正確な思い込みと言えます。事実とは異なるからです。

 わたしたちが「腕」と言って思い浮かべる「胴体から突き出た細長いもの」を、骨の組み合わせに着目すると、腕の付け根は上腕骨といえます。
 この上腕骨が関節を作っている相手は、肩甲骨です。
 腕は肋骨から生えているのではありません。

 ところで、骨格の構造からは、腕は背骨(脊椎)から生えているともいえます。
 すこしだけ詳しく書きます……《上腕骨〜肩甲骨〜鎖骨〜胸骨〜肋骨〜胸椎》という順序で【胴体を支える骨たち=脊椎】につながっているからです。

《疑問:肩甲骨と胴体のつながり方は?》

 肩甲骨は胴体の骨格からは浮いています。
 大雑把に言うと、肩甲骨は胸郭の表面上をすべるように動けます。

 肩甲骨がつながっている相手の骨は2つ。
 腕の末端に近い側の相手は上腕骨であり、【体を支える軸=脊椎】に近い側の相手は鎖骨です。

 鎖骨は、首の前に回りこんで胸骨に繋がります。
 胸骨は肋骨たちへ、肋骨たちは胸椎たちにつながっています。
 胸椎というのは背骨(脊椎)の一部で、肋骨とつながっているものが胸椎(きょうつい)と呼ばれています。

 肩甲骨というのは、もしかしたら、腕を前で使いやすくするため、そして、力を発揮するための、ガイドみたいな役割かもしれないですね。
 肋骨の大きなカーブに沿って広い範囲を動き回れるように、筋肉で包まれています。
 よく出来たおもしろい仕組みです。

 腕が動きまわる時、胴体から飛び出した部分だけを動かそうとするのは無理ゲーです。
 わたしたちの身体というのは「ある1つの関節だけを動かす」という命令は、動きづらい命令です。

 腕を動かしたい時には、腕を支えている胴体全体も含めて「自分の全体が、腕の動きを助けてくれる」という発想に切り替えていくことで、動きやすさを作れます。

 どんな小さな動きであっても、全身のあらゆる可動性を駆使して、より少ないエネルギー消費で最大の効果をあげられるように設計されているからです。
 そのために、指を動かすなら、手首も肘もわかるかわからないかという程度に動かされるようにできているからです。
 そのために、いくつもの骨を、筋肉や靭帯などがつなぎとめているからです。

●実験

 「手の薬指だけを手の甲側へそらす」
 「手のひらを机の上につけたまま、手や腕など自分の全部がついていくことで、薬指が机から離れていく」

 2つのやりかたで動いた時、どんな違いがみつかるでしょうか?

 こうした実験を通して、意図だけでも動きの結果が変わることを体験できます。

 もちろん、この実験はあなたが一人で行うこともできます。
 しかし、観察に必要なだけの十分な時間を取らないまま観察を終えてしまうことがあります。
 (あえて別の言葉で言うなら「諦め」「妥協」でしょうか……)

 「わたしは、たしかに自分が何をしているか知っている」
 といえるようになることで、演奏は激変します。

 《観察する自分》を育ててみませんか?

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