【ヴァイオリンの構え方について】会話の記録〜キャシー・マデン先生とのレッスン(2013/05/17 東京・目黒)
2013/06/07
2013年5月17日、キャシー・マデン先生とのレッスンでどんな会話をしたのか、書き起こしてみました。その場に居合わせなかった人にとっては、少し分かりづらさがあるかと思います。それでも十分役に立つアイデアが含まれていますので、ここにその会話から書き起こして紹介します。
レッスンの背景
このレッスンは、アレクサンダーテクニーク教室「BODYCHANCE」の音楽家向け指導者養成コースのBodyThinkingクラスをキャシー・マデン先生が担当したときのものです。このクラスは10名以上が参加しており、プロ・アマチュアの演奏家が居並んでいて、メンバーそれぞれが、自身の関心・課題を持ち込んで探求する場となっています。
レッスンの会話録
キャシー・マデン先生は英語で話しました。通訳はこのクラスのディレクターであるバジル・クリッツァーさんです。約9分間のセッションでした。
まず観察
Cathy:なにか探求したいことは、特にありますか?
Ichiro:今日は、ここまでのレッスンでたくさん話を聞いたので、自分では考えられないです。
Cathy:きょうのをいろいろある上でどうなるかという実験ですね
私はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番第1楽章から、Allegro Aperto(独奏のAdagioのあと)を一区切り演奏しました。
キャシーの分析と提案「習慣化したものを《新発見》してみよう」
Cathy:ちょっと止めますね。いまのところでは、どんなことにきづいた?
Ichiro:よくわかんない。けど、どんどん楽しくなってきちゃった。
Cathy:素敵なことね。それなら、いままで何度となく練習してきた《この動き》を見ていきましょう。で、新発見にしちゃわない?
補足すると、ここでキャシーの言う《この動き》とは、楽器を構える動きのことです。私が手にしている楽器を演奏可能な位置へ動かすために使っている《意識的でない、習慣化した一連の動作パターン》のことを言っています。
演劇の訓練法「《なにこれ?こんなの初めて見るよ》という演技」
Cathy:演劇の訓練法で《何をやるにしても、さも初めてやるかのようにやる》というものがあるんです
キャシーは、私に向かってそう言いながら、レッスンを進めていきます。キャシーは私に向かって即興でセリフを仕立てて、私の演技を促していきます。
(左手に持っているものを見ながら)
あらっ?
なんだか、木のようなものがあるわ!?この「木でできた、もこもこしたもの」を持ち上げてきて
こっちはこっちへ
……《細いうずまきのかたちのあるさきっちょ》を身体から離す方向へこっちはこっちへ
……《太っちょのおしりみたいなところについている、小さな出っ張り》を身体に近い方向へこれが《リード》です(リード=動きを先導する、の意味)
わーお。
(木でできたモコモコしたものが、肩にのっているぞ!?)
ここまでで、ヴァイオリンを肩(鎖骨)に乗せることができました。次は一体どうなっちゃうんでしょうか?続きを見ていきましょう。
そして、こっち(右手)には……
「馬の毛の毛深い棒??」
一体何なの?
なんじゃこりゃ?馬の毛をあそこ(ヴァイオリンの弦の上)に乗せるのかな?
……でも、これって理由があってやっていることなんですよ。
毛を弦に向かって動かして……
あらら、演奏が始まってしまいました。初めの演奏とはずいぶん違います。音量は小さくなったかもしれない。うるさく無くなった感じ。音の立ち上がりは、くっきりです。
キャシーは、2回目の演奏に対して次のようにコメントしました。
この手がすごく自由になったので、「おい、どこに動かしたらいいんだ?!」っていう感じに、ちょっと迷い始めたようですね。
今回の楽器の持ち上げ方だと、本当に手が自由になったので「おお!あっちにもいっちゃった!こっちにもいっちゃった!」ってなっちゃったんですね。
でも、その後、高速で再計算して補正していきました。素晴らしい!
これだけでもOK!だけど学びを深めよう…
2回目の演奏はずいぶん変わりました。私自分も変わったのがわかったし、クラスメートたちも演奏中に変化を発見したようでした。でも、ここは音楽指導者養成コースです。キャシーは、変化の要因を説明し始めました。
素晴らしいですね。
《この動き》をもう一回見ていきましょう。
(この動き=ヴァイオリンを演奏するために、持ち上げて鎖骨に乗せる)あなたは遊びゴコロ満載なので、それが何よりも役に立っています。
だから私も遊びゴコロをもってやっていました。「こういうやり方」「いつものこれ」
というパターンに慣れてしまうんです。ひき付けるうごきが生まれ
《関節の渋滞》が起きていた。先端へ行くほど飛躍的に動かなくなるんです。
ちょっと説明を補足します。この日、キャシーは「関節の渋滞」という言葉を何回か使いました。身体の中心部を動けないようにすると、末端へ近づくほど飛躍的に動きにくくなる。身体の中心部で渋滞が起こると、末端には渋滞の影響が拡大されると言っていました。
さて、レッスンの流れに戻りましょう。私が楽器を持ち上げるときの《習慣的な動き》をする代わりにどんな事をしたのか。そういえば《動きの新発見》をしたんだよねということを思い出しながら、再実験へと導かれていきます。
このモクモクした変な物体を動かすという再発見が……
《大きさの再発見》につながり……
《場所の再発見》につながり……(といわれながら、私はモクモクしたものを持ち上げた)
あたまなんて、ほんのちょっと動かすだけでよかったですね
(ちょうどアゴの近くに、アゴを乗せても良さそうな、黒い木でできたものがあるので、頭を動かして触ってみた)
今度どうなっているか、
次はどうなっているか(「さっきと同じように」ではなくて、新しくていいんだ!変わっちゃっていいんだ!)
今度は肩あてがマッチしましたね。
さっきは「肩あてがなんでそういう感じだったのか」を一生懸命考えさせられていたんです。
(さっきは、形状と使い方が一致していなかったようです)
いま肩あてが、あなたのカーブについていっています。
素敵ですね。
そして、演奏開始。一区切り演奏したら、クラスから拍手が起きました。
最後にキャシーからひとこと
新しいって、いいわね。