チェロ:「速いスタッカートがうまくいかない!」左手と右手のシンクロ・その2(弦はトランポリン)

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アンサンブルの楽曲で
速いパッセージを「スタッカートでひいてください」
と言われているが、うまくいかない。

・音の変わり目をハッキリさせたい
・《スタッカート》をマスターしたい

 チェロの生徒さん(Yさん)とのレッスンでこのような質問をうけました。

《スタッカート》ってどうすればいいの?

わからないときは辞書を引いてみよう

 分割された、切り離された、という意味のイタリア語です。

スタッカート 4 [(イタリア) staccato]
音楽で、一音符ずつ切り離して歯切れよく演奏すること、また歌うこと。また、それを示す符号。

⇔レガート
スタッカートとは – 音楽用語 Weblio辞書

 ためしに、この定義にもとづいて、どう演奏したらよいか考えてみましょう。

 ひとつの音符と、その次の音符とを切り離して演奏する。これって、具体的にどういう事でしょうか。音符と音符の間に、無音の時間を挿入すればよいでしょうか?いいえ、それならば休符を挿入して演奏することになってしまいます。

 では、どうしたらよいでしょうか?別の辞書を見てみましょう。

どう身体を動かせばいいかを納得するために、とことん調べよう

 さきほどの辞書では、こう書いてありました。

一音符ずつ切り離して歯切れよく演奏する

 別の辞書には次のように書いてありました。

スタッカート[staccato]
音符を本来の長さより短く演奏することを指示する用語。音符の上又は下に(・)をつけて示す。又はstacc,の略号が使われる。
スタッカートとは – 音楽用語 Weblio辞書

 4分音符なら、4分音符ぶんの時間いっぱいに音を出すのではなく、短い時間だけ音を出し終えて、残りの時間は音を出さないということを言っています。

 ……私・いちろーた自身は、このようにして音のはじめ方と終わらせ方について、自分で自分を納得させることができました。どれだけ短くするかは、厳密な決まりがあるわけではないようです。ただ、余り短くしてしまうと、楽譜を書き換えて演奏しているのと同じになってしまうので、どの程度の短さにするかは、丁寧におさらいしたほうがよさそうですね……

速いパッセージで何が起きているかを観察してみる

 速いパッセージをしているときに、スタッカートがうまくいかないのがそもそものお悩みでした。そして、スタッカートとはどんな奏法であるかということも考えました。

スタッカートとは、
書いてある音符よりも短く音を出し、
次の発音を開始するまで沈黙する奏法である

ということが、ここまで考えてきてわかったことでした。

右手を動かすために自分に何と言い聞かせている?

 Yさんにお聞きしました。「スタッカートをひくために、どうやって弓を動かしていますか?」

動かす、止める

 これがYさんのやり方でした。1つの音に対して2つの動作命令を出していました。なるほど、誠実な方法です。動きがゆっくりな場合は、この動かし方でもスタッカート奏法を実現できます。しかし、想像してみてください。このやり方は、ある速さに達すると「(今だ!)動かす、(この長さで)止める、(よし次の音を出す時間だ)動かして、(この長さになったから)止める……」という命令で脳の運動命令システムに負担をかけます。

解決策その1.「命令をシンプルに!」

「短く動かす」「短く動かす」……
「短く」「短く」(どれくらいの長さだ?)……

(定規で確認するといいですよ)
「4ミリ」「4ミリ」……
「2ミリ」「2ミリ」……

あるいは、ただ「動かす、動かす」だけにしてみる

 命令を発する頻度を少なくするほうがいいのです。さっきまでは、1つの音のために2つの命令を使いましたが、1つの音で1つの命令。もっと減らす必要があるなら、2つの音を1つの命令で演奏できるような発明が必要ですね。

実際の動作は何をしているか?

 Yさんの場合、弓の動かしかたは、こうなっていました。

弓を浮かせておいて、
弓の毛を弦に向かわせながら、弦に触れる前からこする動作をはじめて
弓の毛が弦に触れたらすぐ弦から離す

 この繰り返しを「スタッカート」と思ってやっていたのでした。弦に触れる前からこすっていたこと、せっかく弓の毛が弦に触れたのにほとんどこすらずに浮かせている……これが音のはっきりしなかったことの大きな要因です。

 そこで、私は次のようにひき方を変えるように提案しました。

弓の毛を弦にくっつける、こする
くっつける、こする

くっつけまくって、こする!《跳ねちゃってもいいや(笑)》

 音がまるっきり変わりました。

中級編:「弓の部位で跳ね具合が変わる」

くっつけまくって、こする!《跳ねちゃってもいい(笑)》

 というお話をしたついでに、弓を跳ねさせるテクニックについて説明しました。

 単純に言うと「元弓=何をやっても跳ねない」「中弓=どうにでも跳ねる」「先弓=細かく跳ねる」という3分類。弓の重さバランスによっても変わることを体験するために「弓を逆さまに持つ」ことで、弓の跳ね具合や移弦するときの右腕の動かし方の変化についても学びました。

今回の仕上げ:「弦はトランポリン」

弦はトランポリン
左手が張り具合を変えて
右手がその上で踊る

 このたとえ話がYさんには分かりやすかったようです。速いスタッカートのとき、左手も右手も素早く動きつづけます。

右手で弦の変化を遊ぶ

 右手が弓の毛を弦に着地させるときに、弦の状態はいつも同じではありません。それに応じて着地のさせ方を変えてもいいんです。

  • 弦に触れさせたままで止める
  • 弦に触れたまま動かす
  • 弦から離す

左手で弦の変化を遊ぶ

 左手が弦への触れ方を変えることで、弦の状態は変わります。張りの強さだけでなく、指に押されることで角度も変わります。これによって弓の毛がどんな着地ができるかは変わります。

右手「どんな張り具合の弦であっても、踊ってみせる」
左手「やりたい踊りを引き立たせる張り具合をつくってみせる」

 たとえば、こんな考え方で左手と右手の連携プレーを楽しんでみてはいかがでしょうか。

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