「弦にのせてから、ひきはじめる」ということについてのよくある誤解
音を出すときは、弓を弦の上にのせてからひく
今回はこの事について、ありがちな誤解と、誤解を解く教えかたを考えます。
「弓毛を弦にのせてから、ひく」は正しいけど……
はじめに言っておきます。「音を出すためには、弓毛を弦にのせてからひく」は正しいです。別の言い方をして確認してみます。
弓毛の運動により音を出すためには、弓毛が弦と触れ合っていることが必要である
これは、弓毛が離れているときの弦の振動には、弓毛は関与しないものだ、ということも含みます。
「のせて、ひく」が生む誤解
弓毛を弦の上で動かさずに止めておくこと。この状態こそが弓毛を弦にのせることだという誤解があります。
誤解のもとは、「弓毛と弦を触れ合わせるやいなや、ただちに、弓毛の運動が弦を振動させはじめてもいい」ということを見逃していることにあると私はおもっています。これは、私がジェラール・プーレさんのマスタークラスを拝見したときに気付かされたことです。
ジェラール・プーレさんは、受講生にこのように言いました「弓を弦にのせた後、なぜ止めるんだ。弦にのせた途端、すぐにひきはじめなさい」と。
以前、こんなことを記事のなかで書きました。
弦はトランポリン
左手が張り具合を変えて
右手がその上で踊る
チェロ:「速いスタッカートがうまくいかない!」左手と右手のシンクロ・その2(弦はトランポリン) | バイオリン応援団
トランポリンから飛び上がるためには、幕を蹴ります。蹴ることができるのは、幕と足が触れ合っている時だけです。
バイオリンで言うと、弓毛と弦が触れ合っている時だけ音を出せます。
弓毛と弦の触れ合う瞬間のことを語るときに大事なのは、「どんな音の出だしにしたいからどう触れ合わせるか」ですし「どんな音の終わりにしたいからどう離すか」という問いかけが生まれるということではないでしょうか。
よくある間違いとは、「弓毛を弦にのせてからひきはじめる」を、弓毛を弦と触れ合わせたら、一時停止して、食い込ませてから、動かし始める……というふうに動作を1ステップずつ区切らねばならないと勘違いしてしまうことです。
そして、そのカン違いを見抜くには、ひきはじめるその瞬間を見届けられるように観察することが必要なのです。
こうした観察スキルを磨いてレッスンの質を向上させていきます。