バイオリン:「移弦がバタバタする。リズムに乗って移弦したい」《移弦習得エクササイズ・超基本編1》〜「重音で練習して」「円を描きなさい」の意図とは?

移弦のときにリズミカルにできず、またボーイングも指板と駒の間を行き来してしまう。

 ヴァイオリンHさんのお悩みです。レッスンのお申し込み段階で、こうした情報を教師に向けて提供できるというだけでも、かなりの観察眼ですし、それをご自身でなんともしようがないということまで思い至ってのレッスン受講でした。

今回の要点

  • 最初に思い出すのは「頭が動けて、自分全部が動ける」
  • 移弦とは「弓の毛を、2本の弦の間で乗せかえる」
  • 指の仕事は「バランスをとり続けるために」「デリケートに動きまくる」

 最初にレッスンでお会いしたときに、おはなしを改めて伺ってみたところ、なるほど、素晴らしい探究心です。ご自分の演奏だけでなく、周囲のプレーヤーの演奏の様子や、指揮者・ヴァイオリン教師の指導法についても実に詳細な観察と、丁寧な分析をされていらっしゃいました。

移弦のことをやる前に、わかってほしいこと

 楽器の演奏は、頭に思い描いた音のイメージを、楽器に託して表現するものです。そして、楽器を扱う過程の一部として、身体が介在します。

 簡単に言うと、「楽器の演奏って、身体を使うことなんだよ」ということです。そして、身体を思い通りに動けるようにするためには、頭の中にある《思い》を動きに変えるための最初の関節が、どうにでも動けるようにしておくことが大切です。

頭が動けるようにしてあげて、
それによって自分の全部が動けるようにしてあげて、
そうすることで、楽器を動かしたいように動かすことができる……。

 これが、楽器演奏をするときに、いつでも思い出して欲しいことです。

では、移弦とは何をすればいいことなのか

 移弦とは、2本以上ある弦にわたって、弓の毛をのせ替えることです。

移弦習得のために・その1 ただ乗せかえる

 弓の毛の先端ぎりぎりを最も外側の弦にのせます(VnはG線、VaはC線、VcはA線)

 次に、弓の毛をこすること無く、ひとつ内側の弦にのせかえます(VnはD線、VaはG線、VcはD線)

 最後に、最も外側の弦にのせます(VnはG線、VaはC線、VcはA線)

 最初の位置関係に戻りましたか?本当のぎりぎり先弓(これ以上先には毛が無い)を使ってやってみてください。

 ここまでを、何回か丁寧に繰り返してみてください。

別の弦の組み合わせでも試しましょう

  • ヴァイオリンなら……G-D, D-A, A-E
  • ヴィオラなら……C-G, G-D, D-A
  • チェロなら……A-D, D-G, G-C

 といった具合です。

 それぞれの弦の組み合わせによって、どんな違いがありましたか?身体のどの部分をどれだけ動かすことで移弦が実現されていましたか?

 駒のカーブ形状や高さによって、移弦に必要な動きは変わります。このことも大切な事です。

移弦習得のために・その2 弓の場所による違いを感得する

 その1では、先弓を使いました。今度は、先弓とは違う場所を使うことで、必要になる身体動きがどう変化するのかを調べます。

  • 同じことを中弓(先と元の中間地点)でもやってみましょう
  • さらに、同じことを元弓ギリギリのところでもやってみましょう

移弦習得のために・その3 弓のバランスを変える

 ここまでは、弓を通常の持ち方で取り組んできました。こんどは、弓を逆さに持ちます。フロッグ(frog:毛箱)を先端に来るようにして、チップ(tip:先端)が手元にくるようにもちます。ただし、チップ付近は弓の棹が細いので持たないようにしてください。ある程度の太さがある辺りを持つようにしてください。これによって弓が破損しても、一切責任は持ちません。

 逆さまに持って、《その1》と《その2》をやってみましょう。

 弓を持つ手、特に指先へ伝わる力が全く変わってきます。弓の重さは、弦に引き受けてもらいましょう。指の仕事はあくまでも、弓の毛が弦に接していられるようにバランスを取るためにデリケートに動き続けることです。

最後に……よくある移弦練習法と誤解を解くヒント

 よくある移弦の練習法やアドバイスを簡単に説明しましょう。デメリットというか《練習法によくある誤解》を解くためのヒントも書いてみます。

「二弦を同時にひく」
*弓の毛が弦に接する角度に着目したアドバイス・練習法です。デメリットは「二弦を同時にこすれる角度を少しでも外れてはいけない」という誤解を生みやすいことです。
*弓の毛がもつ弾力や、弦そのものが力を受けて沈み込むことや、指が自由に細やかにクッション性のある動きをできる事を示すことで、この誤解を解くことができます。
*移弦をしたいのであれば、「乗せ替えるときに《一瞬だけ》重音奏法と同じ状態になりうる」という説明だけしておけばいいのです。「重音奏法からちょっと傾きを変えることで1弦だけ演奏することができる。これが移弦のときに起きていることですよ」と説明すればよいのではないでしょうか。
*逆に、重音奏法をする場合には「様々なクッション性に助けられて、ちょっとくらいの角度のブレは2弦を同時にこすることの邪魔にはならない」とアドバイスすることもできるでしょう。
「円を描く」「丸をかく」「8の字をかく」
*弓を持つ手の描く軌跡、あるいは弓の先端や、弓元の端が描く軌道に着目したアドバイス・練習法です。デメリットは「演奏者から見て真円を描くことが、必ずしもリズミカルな移弦とはならない」ことです。
*円を描く練習をするときに、最初は「円を描く事だけ、出てくる音はずれてもいい」と言い聞かせてからやってもらいましょう。そのあとで「出てくる音のリズムを変えるには、円の描き方を変えるんですよ」と言い聞かせれば、自分から移弦のための練習を進んで行うことができるでしょう。

 Hさんは「できるようにするにはまだ時間がかかるけど、原理はわかりました。これで自分だけでも練習が進められます。これまで教わってきたときには、練習の意図・目的、奏法の原理を示してもらえたことがありませんでした。楽譜を読んで、それにふさわしい練習方法を自分で編み出すこともできそうです」とよろこんでくださいました。


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