弦楽器指導者に贈りたい言葉……「姿勢は仕事をしない!」

2016/05/22

 弦楽器指導者の皆さん!大事なことを申し上げます。

「姿勢」は仕事をしません

 じゃあ姿勢って何なのさと問われたら、今の私はこう答えます。

「姿勢」とは仕事の結果としてあらわれる現象です

 姿勢と仕事というつながりを、どう演奏に役立てるのか、ちょっと考えてみましょう。

「仕事」と「姿勢」について

これだけは押さえておきたい3つのポイント

  1. 同じ「仕事」ができるなら、どんな姿勢だって同じ価値がある
  2. 「仕事」と「労力」は別モノ
  3. 「仕事」は動きとともにある

 まずは仕事とは何かというおさらいからです。

「仕事」とは何か?

物理学(力学、熱力学)において仕事(しごと)とは、物体に加えた力と、それによる物体の位置の変位の内積(スカラー積)によって定義される物理量である。
仕事 (物理学) - Wikipedia

 なにやら難しい言葉が書いてありますが、読みといてみると「何がどれだけ動いたか」「何をどれだけ変えたか」が仕事だといえるのではないでしょうか。

《同じ仕事ができるなら、どんな姿勢だって同じ価値がある》と認めましょう

 野球にたとえると……打者の打った飛球を、野手が飛びついて取ってアウトにしても1アウト。一歩も動かずに取ってアウトにしても1アウト。ファインプレーも、平凡なプレーも1アウトは1アウトです。どちらも「アウトを1つ取る」という点では同じ価値があります。

 もうひとつのたとえ話は……パソコンで書類を作るときに、椅子に座っていても、床に寝そべっていても、同じ書類ができあがるならどちらの姿勢も同じ価値を持っていることになります。

「仕事」と「労力」は別モノ

 仕事は結果です。労力はコストです。

一定レベルの演奏をできるなら、ラクな方がイイ
一定レベルの演奏をできるなら、ラクなのはよくない

 一定レベルの演奏ができるなら、労力は少なくすむほうがラクですよね。でも、それって後ろめたさが残る言いかたかもしれません。どうせなら、持ちあわせた技能・経験を最高に活かした演奏をできるようにしたいですよね。ならば、こう言い換えてみるのはどうでしょうか……

今と同じ労力を注いでいるだけなのに、もっと高いレベルの演奏をできるなら嬉しい

「仕事」は動きとともにある

 すでに述べたように、仕事とは「変える」ことです。バイオリン演奏にあてはめておおざっぱに言うと、音を出すために弓を動かすこと、振動する弦の長さを指で触れて変えることだったりします。

 弓を動かすにしても、弦に指で触れるにしても、演奏する人の体の動きが必要です。止まったままでは、仕事になりません。あるいは、止まっておくために動きを殺し合っても仕事になりません。

教師なら知っておきたい「姿勢」という言葉の持つ害毒

し‐せい【姿勢】
1 からだの構え方。また、構え。かっこう。「楽な―で話を聞く」
2 心構え。態度。「政治の―を正す」

しせい【姿勢】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

 優れた教師が「姿勢」という言葉を使うときにどんなことを思っているかというと、「やりたい動きをできるように、いつでも動けるようにする」ということなんです。

 ですが、多くの人はこの「姿勢」という言葉をこんなふうに解釈する可能性があるということは覚えておいたほうがよいでしょう。

止まったままでいる
固まって動かないようにする
勝手に動いてはいけない

「姿勢」を思い浮かべるとき、このように思っているひとが多いのです。そうした人たちは、「姿勢」を思うたびに、やりたい事をいったん忘れてしまって、自分で自分を固めて・自分で動けなくしてるんです。

1 造り。構造。また、家屋などの外観。「―の大きな家」「洋風の―の門」
2 予想される事態に対処するための備え。「和戦両用の―」
3 即座に有効な動きができるように整えた、からだの格好。特に、武道・格闘技での姿勢。「独特の―でバッターボックスに立つ」「上段の―」
4 漢字の部首の一。字の外郭をなす部分で、「門(もんがまえ)」「囗(くにがまえ)」などがある。
5 ⇒御構(おかま)い2
6 こしらえごと。つくりごと。計略。
「当座の―の言葉なり」〈曽我・一〇〉
かまえ【構え】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

 構えというのは、プラン(plan 計画)ということです。プランも固定されたものだと思っている人が多い言葉かもしれません。生命の本質は、変わり続けることにあります。変わるのをやめること・変わることを自発能動的にできなくなることが死ということなのですが、演奏活動となると、そのことを忘れてしまう人は多いようです。

まとめ

「姿勢」は仕事をしません
「姿勢」を思うかわりに「プラン」しましょう《やりたいことのために何をするか》

 弦楽器奏者のみなさん、指導者のみなさん、「姿勢」という言葉は注意深くやりとりしましょう。

過去にこんな記事も書きました

 身体を働かせるって何だ?!《力を使うのは何のためか》 | バイオリン応援団*弦楽器奏者に役立つ・カラダのやさしい使い方講座という記事を書いたことがあります。こちらも何かのお役に立てるかもしれません。

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