あなたの親指は大丈夫?バイオリン奏者が知らないうちに苦しむ《5大悪》への処方箋

2016/05/21

 演奏を自由に楽しむカギは、親指にあります。

 親指の動きを自由に使えている人と、不自由さを感じている人との間には、大きな隔たりがあります。
 どんな違いがあるか、ご存じですか?

 いちろーたです。

 今回は、バイオリニストが知らないうちに冒されている「親指を痛めつける《5大悪》」への処方箋をご紹介します。

バイオリニストが知らないうちに冒されている「親指を痛めつける《5大悪》」への処方箋

親指を痛めつける5大悪とは、次の5つです。

1. 「親指の関節が2つだ」
2. 「親指は力強い」
3. 「親指は固定すべき」
4. 「親指の位置を先に決める」
5. 「親指に力を入れてはいけない」

です。

さっそく、ひとつずつ見ていきましょう。

1. 「親指の関節が2つだ」

 親指の関節は、2つではありません。
 「3つある」と知っておいてください。

 多くの人は、親指のことを手のひらから細く伸びた部分のことだと思っています。
 これが、親指の性能を邪魔しています。

 親指の関節は、手首のすぐそばに、もうひとつあります。
 いますぐさわって確かめておいてください。

 親指の関節は3つあります。

2. 「親指は力強い」

 親指が力強いわけではありません。
 親指は、ほかの指や腕の仕組みと一緒になって動く時に、性能をフルに発揮します。

 試しに、親指以外の指や腕など残りの身体全部を《動かさずに》
 親指だけを動かしてペットボトルのフタを開けてみましょう。

 親指は、ほかの指や腕の仕組みと一緒になって動くようにできています。

3. 「親指は固定すべき」

 親指は動けるようにしておきましょう。

 2で述べたように、親指はほかの指や腕の仕組みといっしょに動くことで
 本来のパフォーマンスを発揮します。

 それは、親指にとってのことだけではありません。
 他の指が動くためには、親指の《ほんのちょっとした動き》による助けが必要です。
 腕全体にとっても同じです。

 弓を持つ時、指で弦を押さえる時、親指を固定しようとするかわりに、
 「演奏に必要なら、いつでもどこへでも動いていい」と思っておきましょう。

4. 「親指の位置を先に決める」

 親指の位置をどうしても決めたいときは、最後に決めましょう。

 なぜなら、親指は、5本の指のなかで、もっとも自由に動ける仕組みを持っているからです。
 弓を持つ右手も、弦を押さえる左手も、目的があって動かすものです。
 どちらの手を動かす場合でも変わりません。

 「手の全体が動きやすいように、親指の位置を後から調整していい」と思っておきましょう。

5. 「親指に力を入れてはいけない」

 力加減ではなく、欲しい動きに注意を向けましょう。

 何がどう動いて欲しいのかを決めれば、それに必要なだけの動きが生まれます。
 動きを考えるには、速さと方向を考えればよいです。

 速さを考えるには、いつ終わらせるか、いつ始めるかを選びます。
 方向を考えるには、どこへ行けばいいか、どこから始まるかを見つけます。

 力加減ではなく、欲しい動きの《速さ・方向》に注意を向けましょう。

 というわけで、5つの大悪とそれにどう対処すればよいかについて、いまのわたしの考えを紹介しました。

 興味がわいたものがあれば、実際に練習などで使ってもらえたら嬉しいです。
 そして、感想や意見、質問がでてきたらシェアしてくださいね。

親指を痛める諸悪の根源とは?

 ところで、この《親指を痛める5大悪》には共通点があります。

 それは「本来の機能を邪魔する」という共通点です。

 どんな共通点があるのでしょうか?
 ちょっとだけ説明しましょう。

 バイオリンの演奏をする人を見ていると、
「もっといい演奏ができるはずなのに、もったいないな〜!」
と思うことがあります。

 何がもったいないか。2つあります。

 A. 使えるものを使っていない
 B. 使っても役に立たないものを使っている

 この2つです。詳しく説明しましょう。

「A. 使えるものを使っていない」

 これは、目的のために最高の道具を持っているのに使わずにいる人のことです。
使わない理由・事情は人それぞれです。

 たとえば、最高の道具を持っているにもかかわらず
 「あれが欲しい」
 「あれがあったらできるのに」
 と、自分の持っている道具の存在に気づいていない人。

 こういう人は、本当にもったいないですよね。
 はやく誰か気づかせてあげてください!

 あとは、自分が持っている道具の価値・性能を知っていながら、
 「いまはまだ使うべき時じゃない」
 とか理由をつけて出し惜しみしている人も見たことはありませんか?

 このタイプの人は、自分のいままでの人生の価値を低く見積もっていて、いまの自分がやっていることを過小評価してしまっている……そういう人が多いように思います。

 いまの自分が最高のパフォーマンスを発揮できるように惜しみなく活動することこそが、未来の自分と周りの世界への何よりの投資になる、と私は思います。どう思われますか?

 もうひとつのタイプは、倹約タイプの人にみられる傾向です。
 節約しようという思いが強すぎて、「なぜ節約しようとしていたか」を見失ってしまう。
 結果として、使うべきタイミングを見誤ってしまう……これももったいないですよね。

 これらタイプAは、ひとくくりに「宝の持ち腐れ」とも言えそうですね(^^;)

 もうひとつの、Bのほうはどうでしょうか?

B. 使っても役に立たないものを使っている

 使うことそのものに取り憑かれてしまって、それを使った結果どうなったかを忘れていると誰でも、この状態に陥ります。

一度「おいしい思い」をしてしまったために、ほかの方法を使わなくなっている人です。

 たとえば、他の方法を試す手間ひまを惜しんだり、リスクを冒すことに恐怖を感じたり、ということもこの内に含まれます。

 今度は別の状況に変わっているのに「おいしい思い」をできたやり方でやればうまくいくはずだ、と「とらぬ狸の皮算用」をするのも、これに分類できると思うのです。いかがでしょうか。

 どんな人も、この2つのもったいない罠

A. 使えるものを使っていない
B. 使っても役に立たないものを使っている

にハマる可能性があります。

《5大悪》の罠から抜け出す、回避する秘策とは?

 では、この罠から抜け出すためにはどうすればいいのでしょうか?
 そもそも、罠に気づいて予め回避できるようにするにはどうしたらいいのでしょうか?

 それには、「知っておくこと」が大事です。

 「邪魔」というものは、本人が気づかないように忍び寄ってきます。しかも、その時々に応じて、一番分かりにくい姿を選んでさまざまに形を変えて現れます。習得ずみのテクニックへの慣れや依存心として演奏を支配することだってあります。

 だからこそ、正しい知識を身につけて、必要な時に応じて思い出せるようにしてゆくことが大事です。

 それが、「演奏を邪魔する何か」を見破って、演奏を自ら助けることに通じていきます。

 さらに理解が深めてゆくと、誤った使いかたによる罠にハマっても抜け出せるようになります。
ついつい罠にハマりそうな自分の習性に気がついて、予防できるようにもなっていきます。

 まずは、日頃のシンプルな練習のときに、この「親指のことを思い出す」を始めていってください。そうすることで、演奏にも、思い通りの変化が生まれていきます。そして、期待以上の思いがけない変化が起こったときにも、それを楽しめるようになっていきます。

-体の仕組み・動きを考える