「8個つながった32分音符を、《拍》のなかに、おさめたい」

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前回のブログ「ダイナミクスを広げたい」でも紹介した、ある日の小学生Aさんとのレッスンから。

この日の一番はじめに、「今日は、何をやりたいですか?」というわたしの問いかけに
なかなか答えが言葉にできずにいたAさん。

いろいろと考えているところへ助け舟を出しながら
「いまやっている曲を、みてほしい」
というリクエストを言ってくれました。

題材は、ベリオのコンチェルト。
序奏があって、いよいよソロ・バイオリンが登場する場面。


BERRIOT

やりたいなら、まず、やってみよう!

「ここが気になる」と、楽譜を示してくれました。
そこは、G線を使った低い音から、32分音符で分散和音を上行する箇所。

――さっそく、ひいてみましょう!どうぞ

Aさんはひき終えて言いました。

「いまのを、《拍》におさまるようにやりたい」

さて、どうしましょうか。

この時点で、わたしが見つけたのは、聞こえてきた音について言うと

・32分音符が明瞭に聞こえてこない部分がある

ということであり、

カラダの動きに即して言うなら

・指や腕の動きが停滞する箇所がある

ということ。

この2つが私の見つけたことでした。

まず、おおまかなアプローチを組み立てました。

・音楽的意図を明確にする
・技術的な障害を取り除く
・カラダの動き、自分という楽器の使いかたを、本来の調子に戻す

この3ステップです。

音楽的意図を明確にする

まず、演奏を観察する

――まずは、ゆっくりひいてみましょう

ゆっくりひいてくれました。
全体的に音が小さくなりました。音程は気になりません。
すべての音符が、音になって聞こえました。
移弦の前後に動きの停滞があったように見えました。

――なにか、気がつきましたか?

Aさんは「ううん」と首を横に振りました。
別の言い方を試みることにしました。

――ひいているあいだ、どんな音が出ているかを聞いてみよう。どうぞ。
――なにか、気がつきましたか?

「わからない」
なるほど。

このパッセージを、わたしはいまさっきどう聞いていたかなと思い出しながら、
「わたしのやっていたことを言葉にしてみたら、Aさんがどんな反応をするか」調べることにしました。

――では、もう一度ひくんだけど、チョ~ゆっくり、テンポは自由に変えていいので……
――ひくときに、こんなふうに聞こえていてほしいのね
――1つずつの音について、この音は次の音に変わるとき大きくなりたいか・小さくなりたいかを、調べるために出てくる音を聞こう。どうぞ

指の動きが停滞しなくなりました。
音が大きくなり、発音が明瞭になり、音色が明るくなったのが聞こえました。
わたしには《拍》が気にはなりませんが、問題は本人が何に気づいているかです。

――こんどは、どうだった?

「うーん、だめ」
表情は、さっきまでの「わからない」ときとは変わりました。

――ぜんぜんだめ?それとも、ちょっとだめ?それとも、ちょっとはいい感じだった?

「サンカク、ふたつ」

――なるほど。「もっと良くなるはず」ってことかな?どういうふうにしたいですか?

「うん。拍におさまった気がしなかった」

なるほど。
ここで、《拍》ということについて、どんな考え方があるかを探求することにしました。

抽象的なアイデアを、実践可能なプランとして組み立てる

「《拍》ってナンだ?!」

――「《拍》におさめる」ってどういうことだろう?
――《拍》ってなんだろうね?
――先生から「こうしなさい」ということはなにかありましたか?

と問いかけてみると、

「拍は……うーん。なんだろう、1拍」

――そうだね、1拍っていうよね。じゃあそれが2つになったら?

「2拍」

――そうそう。いいねぇ。3つだったら?

「えっ(笑)……3拍」

――そうだよね。あたりまえすぎるかな?4つだとどう?
――この曲って、何拍子だっけ?これで1小節になったね。

いろんな《拍》の姿

――いま、拍を積み重ねていったら、小節になった。
――じゃあ、拍をこまかく分けていくと、どうなるんだっけ?
――32分音符がいくつもあるけど、どこからどこまでが1拍ですか?

「1つめから、8つめまでが1拍」

――なるほど。たしかにその通り。
――もうちょっと、細かくみてみよう。一つの音符には、音の始まりと終わりがあるのは知っているかな?

「えっ……あー。そうか、わかる」

――そういう意味で、さっきのを言い直すと、どうなるだろうか?

「1つ目の32音符の始まりから、8つ目の32音符の終わりまでが1拍」

――そうだね。ずいぶん、長ったらしいけど、そういう言い方ができます。じつは他の言い方もできるけどわかるかな?

「えー!わからない」

――ここまで、すごくがんばったから、ヒントを出しますね

(8つの32音符を隠す)
(8つの32音符を見せて、その両隣の音符を隠す)

――わかったみたいだね。言葉にできそう?

――ながったらしいけど、念のために言葉にしておくと……
――『《最初の32音符》のひとつ前の音符』の終わりから始まって……
――『《最後の32音符》のひとつ後ろの音符』の始まりで終わる……

――簡単に言うと「終わりは始まり」で「始まりは終わり」ということなんです。

リズム、モチーフ

――楽譜を見てみると、この《32分音符が8つ》の動きは、ソロが始まってから、何回か繰り返されていることに気づいちゃった。しってた?

――その一番最初にでてくる、これだけが上行音形ですね。

――この意味をよく考えてみましょう。きっと、特別ななにかが込められているはずです。

歩いて、拍を取る?!

ここでレッスンを見ていたママさんがコメントをくれました!

――先生のレッスンでは、リズムを取りながらひけるようにって、歩きながらひいてたじゃない?
――だけど、おかしな歩き方になっちゃっていたのよね。あれってどうなのかしら?

なるほど。Aさんも、その時の様子を思い出したようです。
さっそく、歩きながらひいてみることにしましょう。

楽器を演奏しているときと、していないときとで歩き方がすっかり別人のようです。

「狭いから、ぶつかっちゃう」

ママさんの協力で、ソファを動かして通りみちがひろくなりました。

ですが、演奏しながらの歩き方は変わりません。
ここでひらめきました。

何のために歩く?を、よりシンプルに

――《安全第一》で歩こう!
――まずは、安全を確かめるために、楽器を持たずにあるこう。歩いて「この道は安全だね」と確かめましょう

歩いて戻ってきました。

――この楽譜は覚えているんだったよね。
――こんどは、楽器をひきながら歩きます。でもね、《安全第一》でおねがいします。
――どういうことかというと、テンポもリズムも演奏も、歩き方のリズムと演奏がバラバラでいいです。
――とにかく、自分の手のなかに楽器があって、通りみちのすごそばにあるテーブルやイスに気づきながら、歩いてみよう。どうぞ

「歩く」は人間の機能すべてをつかいます。だから効くんです

歩くこと、周囲の状況に意識を向けながらも、
演奏のテンポを緩めたり、止めたりしながら演奏することができました。

歩くことで、足やおなか・背中などの体全部が演奏に参加し始めました。
いい傾向にかわりました。

曲のイメージを、楽器演奏以外の手段で表現する

――ところで、これってどんな場面でしたっけ?
――伴奏がどんなだったか、わかる?

「ちょっとだけど先生が伴奏してくれた」

伴奏を、ダンスで表現しよう

――伴奏譜をみてみよう
――8分音符のリズムがつづくんだねぇ。これに、振付けをしてみよう
――さっき、何回か歩いたけど、歩くようなダンスの振り付けをしてみよう

――こんなのとか、こんなのとか。こんなのでもいいんだけど
――この伴奏の8分音符に、ふさわしいと思える振り付けってどんなのが思い浮かぶかな?

――ぼくのを笑ってるだけじゃなくて、一緒にやってもイイよ
――もしかしたら、恥ずかしいかな?目を閉じているから、すごく変な振り付けを自分でやってみてもイイよ
――もちろん、いま思い浮かべているものでおっけーですよ。

ダンスに合わせて、ソロをひこう

――そしたら、その振付があるでしょ?
――その振付に合わせて、自分のソロパートを演奏してみよう

――いまの、どうだった?

今日はじめての「うんうん」というオッケーのうなずきが出ました!

「あと、ここも気になるの!」とAさん。

調子が出てきましたね。
でも、あなたの実力なら、もっと自分で磨けます。

自分の演奏に、共演者を招き入れる

――本当にいまので満足している?
――まだまだ良くなりそうだよね?

――次に自分で練習するときのために、頭の片隅に置いておくだけでいいんだけど

――たとえば、伴奏の人が、振り付けなしで、ただただトボトボ歩いているとするでしょ?
――そんなときは、「ねぇねぇ、こっちにこんなステキな景色が見えるよ!」とか「ほら、虹が出てる!」とか
――「うわ、最悪っ!ガム踏んづけちゃった」とか、伴奏の人を自分のお散歩の面白いことに招き入れてみてほしいのね。自分の気づいたモノ、おもしろいとおもったものを、そうやってどんどんシェアしていくのが、演奏なんです。
――そうすることで、自分が演奏するだけではない楽しみが作れるようになっていくと、ボクは信じていますよ。

さあ、次はドコをやりましょうか?

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