「ダイナミクスを広げたい」……頭と腕を使って練習してみたら5分でできた!〜バイオリン応援団の弦ラクサプリ【#019】空手チョップでヒジを呼び覚まそう

小学生Aさんとの、ある日のレッスンでのこと。

ベリオのコンチェルトで、オクターブの3連符で上行するところ……

・3連符系の早いパッセージ
・ボウイングのアップとダウンが非対称(音価やアーティキュレーション)
・移弦もある
・ダイナミクスを変える

という箇所で、

「クレッシェンドを、もっとちゃんとしたい」
「弓をたくさん使うように言われたけど、うまくできない」
「もっとダイナミクスを広げたい」

という要望があったので、そのときに使ったアイデアをご紹介します。

難所は、見せ場・聞かせどころ

楽譜イメージ

ベリオのコンチェルトのほかにも、メンデルスゾーンのコンチェルト、ウィニアフスキーの「スケルツォ・タランテラ」などなど、

・3連符系の早いパッセージ
・ボウイングのアップとダウンが非対称(音価やアーティキュレーション)
・移弦もある
・ダイナミクスを変える

という場面は、バイオリニストにとって難関であるだけでなく、細やかな・すばしっこい動き指や弓の動きが、聴衆を引きつけてゆくひとつの見せ場ではないでしょうか。

困ったら、シンプルに取り組もう

高度なテクニックと言っても、基礎的なテクニックを組み合わせて使っているのだと考えて取り組んでみましょう。

まず、大ざっぱな取り組み方を組み立てました。

・やりたい早さでやって、情報を得る
・やりたいことをはっきりさせる
・そのために必要なことのなかから、伸びしろが大きいものをみつける

この3ステップで、取り組むことにしました。

やりたい早さでやって、情報を得る

まず、やりたい早さでひいて、何が起きているかを、みましょう。

それで、わかったことは……?

Aさんの自覚としては、

・音を大きくしようとしても、弓の動きが「これ以上速くできない」ってなる

ということがわかりました。

この時点で、わたしに見えたのは
・アップボウのときに、「最初に」肩を使っていて、肘の可動域が活かしきれていない
・弓先寄りと弓元寄りで、サウンディング・ポイント(=弓毛が弦と触れる接点、音を作り出す点)のコントロール精度が著しく異なる

ということでした。

やりたいことをはっきりさせる

楽譜には、クレッシェンドの書き込みがありました。
わたしは、こんな問いかけをしました。

「クレッシェンドって、何をすることだと思いますか?」
「何をしたら、クレッシェンドに聞こえますか?」
「どんなクレッシェンドがほしいですか?」
「そのために、どう始めて、どう終わらせますか?」

さぁ、もう一度ひいてみましょう。
最初の演奏とは違う表現になりました。

でも、まだできることがありそうです。

そのために必要なことのなかから、伸びしろが大きいものをみつける

何をやりたいかは、すでに明らかです。

この段階まで来ると、大切なのは

・実現するために、どんな手段をもっているか
・持っている手段を、すべて使い切るにはどうすればいいか

です。

最初の観察で気づいていたことに立ち戻ります。

・アップボウで、肩が動きをリードしている。

観察して、最初に違和感を感じたのがここ。

・肘の動きが少ない
・弓の使う場所によって、コントロールの精度が、著しく異なる

この2つの現象は、肩のことが要因となっておこる症状とみてよさそうです。

なぜなら、本来は肘や指が動きやすいように調整役として動くのが肩の仕事であって、弓を動かすことは肩の仕事ではないからです。

軸に近い関節の不適切な使いかたは、末梢の関節の可動域を大きく制限します。

解決策だけを示す

しかし……、こんなことを説明しても、問題の解決にはなりません。Aさんが求めているのは、「クレッシェンドを、もっとやりたい」だからです。

「クレッシェンドができない理由を知りたい」というリクエストがあったときに、はじめて、こうした「できていない理由・原因」について説明をすればよいとおもいます。

では、どんなアイデアが、もっともシンプルで役に立つのでしょうか?
2つ考えました。

・肘を使おう
・ダイナミクスの変え方を3つ試そう

さて、何が起きるでしょうか?

ダイナミクスの変え方3つ……クレッシェンドのためにできることは?

Aさんに聞いてみました……

――クレッシェンドをするために、できることは何?

すぐに2つの答えが返ってきました。
「はやく動かす」
「大きく動かす」

――他にはある?

「うーん……」

――もうひとつ、弓と駒との距離を変えることをやってみよう

「あっ……」

――この3つの方法を、それぞれ1度に1つずつ使って、クレッシェンドしてみよう

弓元だけ、弓先だけでひくことをしてみよう

3つの方法でのクレッシェンドは、それぞれにやってみました。

改善の余地が大きいのは、弓と駒との距離をコントロールして「思いどおりに変える」こと。それをできるようにするために一定の距離をキープしつづけてひくことが思い浮かびました。

そのために、弓の両端のわずかな長さを使ってひくことにしました。

――では、弓の先だけでひいてみよう
――こんどは、弓の元だけでひいてみよう

――もういちど、弓の先だけでひいてみよう
――また、弓の元だけでひいてみよう

――弓が駒からどのくらい近くか、どのくらい遠くかを見てみよう

……と呼びかけて

――いま、遠くなったよ

ということだけフィードバックしました。

ボウイングをコントロールする意識付け、テクニックの出し入れができました。
あとは、肩と肘の仕事がスッキリできれば良さそうです。

ボウイングの立役者「肘」を使おう

ボウイングで、もっとも大事なのは「肘」の動きをフル活用することです。

今回着目したのは、
「おりたたむ」
「のばす」
という動きです。

空手チョップ!


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手を、胸の前(のどの下、左右の鎖骨がカラダの正面で出会うあたり)にさわって、
さわったまま、肘を前方に持ちあげます。

そして、手を体の外側に向けて振り出し、肘を伸ばします。
肘が伸びたら、手をもとの位置にもどして、肘の位置はそのままで折りたたみます。

最初は、ゆっくりと動かします。

どれくらいゆっくりかというと、
「肘が伸びるのを見届けて、それから、おりたたむ」
「肘が折りたたみ始めてから、手が両鎖骨のあいだのあたりにさわる」
という瞬間を見届けられる早さで動かします。

これを1往復で1セットとして。右手を10セットやったら、左手も10セットやります。

肘をどれだけ開いたところで、折りたたみ始めようとするかが、ゆっくりやるときのチェックポイントです。

じゅうぶんに肘を伸ばす(ひらいて)から
肘を曲げる(おりたたむ)ようにします。

それができてから、こんどは、速く動かします。

手を放り投げたら肘が伸びて、
肘が伸びたら、手が元の位置にすぐ戻ってきて、手が体に触れる

これを、「イチ、ニイ、サン、シイ……ジュウ!」と声に出しながら動かします。

10回1セットやったらおしまい。

「アップボウのとき、肘が動く前に、まず肩で腕を持ちあげる」ということが顕著な場合は、これだけで十分な改善効果が出てしまう場合もあります。

これで、「バイオリンでやりたいことをやる」ためのお膳立てができました。

――さあ、やりたいはやさで、やりたいクレッシェンドをやってみよう!

見事にひけました。

今回、クレッシェンドに使える《持ちネタ》が増えたので、ダイナミクスの表現をより精妙にできるようになっていきます。

・3つのクレッシェンド方法を、それぞれ1度にひとつずつ使って練習すること
・そして、それを組み合わせて使ってためすこと

そして、

・「チョップ!チョップ!」で肘の動きをウォームアップする

これが今回、この部分で学んだことになりました。

おまけに、
楽譜をさらに読むことで、音楽の組み立て方も変えていくことができるというお話をして、レッスンを終えました。

レッスンを振り返って

今回、特に気をつけていたのはなにかというと、

「肩をあげないで!」と言う代わりに、何を言うか

です。

ピンクのゾウさんを思い浮かべないでください

といわれたら、ピンク色のゾウさんを思い浮かべてしまいますよね。

「肩をあげないで」と言うと、「肩をあげる」ことに意識が向いてしまいます。それを回避するには、「肘を曲げ伸ばしする」ということを強烈に、急速に刷り込むことが必要でした。

そのために、筋トレ風に「チョップ!」「チョップ!」をやってみたのです。

じつは、動かしている部分にとらわれないために、さまざまな伏線も用意してあったのがきいたのかもしれません。たとえば、声を出しながら腕を動かすとか、楽器を置いたり手に持ったりして、全身の動きを誘導していました。

筋トレに見せかけた《脳トレ》といえるのかもしれませんね。


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