バイオリニストのよくあるカン違い「手の筋肉を鍛えなさい!」〜間違いだらけのトレーニングは音楽家生命を断ち切る
あるレッスン室にて
「せんせー、弓を持っていると手が痛くなるんです」
「よし、宿題を出すぞ。これから1週間、指弓体操10回、5セット毎日やりなさい!」
あるオケ部室にて
「せんぱーい、バイオリン練習していると首が痛くなっちゃって、今日は病院行くからオケの練習早退します」
「よしよし、痛いのは練習してる証拠だ!その調子だ、もっと頑張れ」
ちょっと待ってー!!なにかおかしくないですか?
なにをどうやって鍛えようとしているのでしょうか?
そして、それを鍛えたら演奏がどう変わっているのでしょうか?
どうやって鍛えようとしていますか?やりかたによっては、スタミナ(持久力)が育つどころか、逆に、演奏家生命を自ら断ってしまうことになります。
そして、筋トレとしては正しくても、それが演奏にどう役立っているのかをどうやって確かめますか?
間違った筋トレ〜あるバイオリニストの悲劇
練習していると手や指が痛くなる。これは筋力が足りないからだろうと、腕立て伏せをしてみたり、ハンドグリップやダンベルで筋トレをしてみたけど、音色がちっとも良くならない……。
仕事や家事の合間をぬってどうにか1時間練習しているけど、首や腰が耐えられないほど痛くなる。自分へのご褒美ってことで整体へ行って1時間のリフレッシュ……したはずなのに、帰りに買い物に寄ったら重たい荷物ですぐ肩こり・腰痛が戻ってくる……。運動不足かな?来月からジムに行ってみようか……。
まじめにコツコツ練習する努力家かつ自責タイプの人が、「手の筋肉を鍛えなきゃいけないんだ!」というカン違いを疑わずに続ける傾向にあります。でも、そんなことをしていると楽器をひけなくなってしまいます。シューマンみたいに……。
音楽家のための筋トレ=筋肉の使い方を学ぶこと
間違ったトレーニングは、演奏家の身体を破壊します。いますぐやめましょう。では、バイオリニストのための、正しい身体のトレーニングとはなにをすることなのでしょうか?いったいどうすればいいのでしょうか?
それには、筋肉や骨格など、自分の身体についての現実を知り、やりたい演奏をするために自分の身体をどう活用できるのかを考えることです。
演奏家としての自分が、どうすればやりたいことをやれるようになるのか少しの間考えてみましょう。
スタミナ奏法を身につけるには?!
バイオリニストのスタミナ(持久力)とは?
バイオリニストにとってのスタミナ(持久力)とは、なんでしょうか?
- 疲れずに演奏できること
- より長い時間演奏し続けられること
- より強く大きな音を演奏できること
- いつでも新鮮な感動を持って演奏できること
すぐに思いつくところでは、こんなところでしょうか。
たとえば、長時間の演奏や練習ができるようなスタミナをつけたいならどうしたらよいのでしょうか。
みなさんはスタミナをどうやって身につけましたか?
はじめてバイオリンの弓を持つときのこと、おぼえていますか?
すぐ疲れて、すぐ痛くなって、弓を持つのをやめてしまいましたよね。それとも、疲れや痛みを耐えて、バイオリンをひきたい一心で弓を持ち続けたでしょうか。疲れや痛みをしらずに今まで演奏をしてこられた人もいらっしゃることでしょう。
どちらにしても、いつのまにか3分、10分、1時間と、より長大な楽曲に取り組むことができるようになっていったのではないでしょうか。これは、何が変わったことでできるようになったのでしょうか?
指が強くなった?弓を持つコツがわかった?痛みを我慢できる精神力が強くなった?
自転車とバイオリン、スタミナの伸ばしかた
スタミナ(持久力)を高めるにはどうしたらいいでしょうか?自転車を例にあげて考えてみたいと思います。
自転車にのって、なるべくラクに遠くまで走るための工夫があります。たとえばこういうことです。
- 自転車に乗る人についての工夫
- 自転車についての工夫
自転車に乗る人についての工夫とは、自転車のこぎかたを身につけたり工夫したりすること、自転車をこぐための筋力を増やすことも含めてよいでしょう。
自転車についての工夫とは、タイヤの空気を入れたりチェーンに油をさすということ、このほかにも自転車の部品を軽くて丈夫なものに取り替えることなどもあるのではないでしょうか。
この《自転車を乗りこなす》のと、《バイオリンをひきこなす》のは似ています。
- バイオリンのひきかたを身につける・工夫する
- バイオリンをひく筋力を増やす
- バイオリン・弓を替える、あごあて・肩当てなどを替える
- 楽器の調整(駒・魂柱、指板など)、弦や弓毛の交換、掃除をする
みなさんは、どの項目に魅力を感じますか?
みなさんは、自転車をラクに気持よく乗りたいと思ったら、どんなことをやってみようと思えますか?いっぽう、バイオリンをラクに気持ちよく、思いのままに演奏しようとしたら、どんな挑戦をしてみようと思いますか?
自転車を乗り始めるときに、筋トレをした人はいるでしょうか?ほとんどいないはずです。どうやったらまっすぐ進めるか、どうやったら止まれるか、どうやったら曲がりたい方へ曲がれるかを、はじめに学んだのではないでしょうか。
筋力を鍛えるのは、競技として自転車に乗る人くらいで、それ以外の場合は効率良く使う乗り方を練習する(疲れない乗り方、パワーを出しやすい乗り方)だけでも十分に自転車生活を楽しめるようになります。
バイオリンも同じです。特別な筋トレは必要ありません。
自分の取り組みを振り返ってみよう
みなさんがバイオリンを引きこなすためにやっているあらゆる取り組みは、次の4つのうち、どこかに分類できます。
- バイオリンのひきかたを身につける・工夫する
- バイオリンをひく筋力を増やす
- バイオリン・弓を替える、あごあて・肩当てなどを替える
- 楽器の調整(駒・魂柱、指板など)、弦や弓毛の交換、掃除をする
この1ヶ月間をふりかえって、バイオリンについてどんなことをやったか書き出してみましょう。
いくつくらい、どんなことを書き出せましたか?どの項目にいくらお金を使って、どのくらい時間を使って、どんな効き目がありましたか?
あなたが理想とする演奏がどんなもので、そのためにどんな練習をして、どんな変化が起こったのか。ぜひ記録しておきましょう。記録しておくと振り返ることができます。そして、週に一度でも、月に一度でも、振り返ってみてください。
そうすると、どんな練習にどんな効果があるのか、わかってくるようになります。