「大切なことは目に見えない」……立つことの重要性、メニューインの良識に学ぶ
2014/04/08
見えないものは、なんだろう?
本当に大切なものはね、目には見えないんだよ。
弦楽器奏者の「大切なもの」
今回は、見落としがちな「足」のことを書きます。
あなたも、わたしも、当たり前すぎて見落としていることがあるかもしれません。
今も昔も変わらないが、ヴァイオリニストの生活は、本人の足に支えられている
『ヴァイオリンを愛する友へ』(23ページ)
見る?見ない?
私たち弦楽器奏者が、ふだん演奏をするときには、何を見ているのでしょうか。
あなたは、演奏するときに何を見ていますか?何が見えていますか?
逆に、演奏するときに見ないでいるものは何でしょうか?何が見えていないんでしょうか?
ヴァイオリニストにとって、正しい立ち方、バランスよく首を正しく保って立つ方法を身につけるのは至上の課題だ。ところが、こんなかんたんそうなことがほとんど理解されていない。調和とバランスは、身体のさまざまな部分が協調して動いてこそ生み出されるものだが、この練習は、その協調を認識するために効果がある。
『ヴァイオリンを愛する友へ』(54ページ)
メニューインの良識……「足」を語った11ページ
メニューインは神童としてもてはやされた天才バイオリニストでしたが、晩年は教育活動を熱心におこなった人です。メニューインはユニークな著作を残してくれました。そのなかのひとつが『ヴァイオリンを愛する友へ』です。
この本の、なにがユニークかというと、足のトレーニング法を11ページも使って紹介していることです。全部で178ページあるうちの11ページです。しかも、11ページのうちに写真が7枚も使われています。バイオリニストのための足のトレーニング法として、これだけの紙面をさいた指導書は他に見たことがありません。この本を指導書とは呼ばないかもしれませんが……。
蛇足:定番指導書における「足」の扱いの少なさ
カール・フレッシュ『ヴァイオリン演奏の技法 上巻』の場合は「両脚の位置」という項目で2ページにわたって解説があります。写真は3枚あり、すべて足元が写っています。まさに「足の置き方」の写真です。
次に、ガラミアン『ヴァイオリン奏法と指導の原理』はどうかというと、演奏における下半身の関わりかたについては見当たりませんでした。足・脚という文字が出てこない……のではないかというくらいに、下半身の記述が出てきません。おそらく「持ち方」や「姿勢」について書かれた数十行のなかに出てくる「体」というなかに「あし」が含まれているのだろうと推測します。
足が助けるもの
私たちが知っているか、知っていないか……そんなことにはお構いなく、足は私たちの活動を支えてくれています。
「わたしがやりたいこと」を足が支えるためには、「わたしたちには足がある」ということを思い出しておくことが大切です。どうやって思い出すクセをつけたら良いのでしょうか?
メニューインは次のように書いています。
調和とバランスは、身体のさまざまな部分が協調して動いてこそ生み出されるものだが、この練習は、その協調を認識するために効果がある。
『ヴァイオリンを愛する友へ』(54ページ)
足を思い出すために(メニューインの練習法から)
まず、足を自然に開いて立ちます。体のバランスを取りながら、体重は両足にかけます、なるべく均等に。
次に、体重をゆっくりと左足へと移していきます。右足を静かに床から浮かせてみましょう。
こんどは、右足を静かに床へ乗せて、左足にのせていた体重を右足へと移していきます。全体重が右足にのったら、静かに左足を床から離してみましょう。
左足も右足も床の上に乗せて、右足と左足どちらにでも、好きなだけ体重を移し替えることができることを遊んでみましょう。
楽器を手にとって音を出しながら、さっきと同じように足の上での体重移動を遊んでみましょう。
どちらの足を、どれくらい使うのか。これを思いながら楽器を扱うと、演奏は変わってゆきます。ただなんとなく足を動かすのではなく、「いま、足をこうやって使おう」と思って動かすことがポイントです。