弓の持ち方(5) 「指と手首をやわらかくする秘密」〜指が持つ2種類の《動き》を知っていましたか?〜アレクサンダー・テクニーク研修生が読み解く【カール・フレッシュ】

2014/01/30

ひよことねこ。ふわふわなもの、つかうときだけ牙をむく禽獣たち

手首をやわらかくしなさい
指をやわらかく!

 私はこんな風にさんざん言われてきました。でも、柔らかくしようとしたら、弓を落としちゃうんです。だから、「やわらかく持つ」なんてできませんでした。

ひよこを持つように
ふわふわのお菓子を持つみたいに

 これで、どうにか「やわらかく持つ」ことができるようになったわけです。

 ところが、演奏をはじめてフォルテやピアノ、ピアニッシモやフォルテシモをひいていると、いつの間にかガチガチの持ち方に戻っていました。

 いったい、どうすれば弓の持ち方を「やわらかく」できるのでしょうか?

10代の記憶の印象

 10代のボクが見た名人のボウイングで記憶に残っていたのは、硬い音も柔らかい音もどんな音色でも、どんな動きをしている弓に対しても指や手首が追いついていっているということでした。

 実際には指や手首など腕の仕組みが弓を動かしているのでしょうけれど、見え方としては、まるでいきもののように動いている弓があってそれにただ指や手首が吸い付いていっているかのようでした。

 いま思えば、「動く弓にただついていく指や手首や腕全体」ということこそがボウイングのために腕をやわらかくするコツだったのです。

「やわらかい」ってなんだろう?

 ボウイングをするために、指や手首……腕の色んなところが「やわらかい」ってどういうことなんでしょうか。

 ボウイングの原動力となる筋肉の働きに着目して言うと、「やわらかい」=「筋肉が仕事を始められる状態」だといえます。

基礎知識「筋肉が固まる仕組み」

 私たちが筋肉に向かって言ってあげられることは「縮もう!」「縮むのをやめよう!」というふたつです。

 たとえば、右手の人差し指を見てみましょう。指を曲げてみると……指を曲げる筋肉たちが縮みます。指を伸ばしてみると……指を伸ばす筋肉たちが縮みます。人差し指を曲げるのも、伸ばすのも、「曲げる・伸ばす」何回繰り返しても、1分間ずっと続けていても、たいした苦労なくできるのがわかります。

【指をいじめる実験】

 では、指をいじめる実験をしましょう。指をかためる実験です。どうしたらいいかというと……「指を曲げよう・伸ばそう」を同時にやってみてください。1分間そのままで「曲げよう」「伸ばそう」を同時にやり続けてみましょう。やってみると指はどうなりましたか?さきほどの「曲げる・伸ばす」をした時と比べてみると、指や手首・腕の感じはどんなふうに違いましたか?気分はどんなふうに変わりましたか?

 もう一度、最初にやった「曲げる」「伸ばす」を交互に順番に繰り返すことをやってみましょう。これはイライラもなくできますよね。

 じつは、ここからが本番です。人差し指を曲げたら、曲げるのをやめてみてください。曲げるのを途中でやめるのでもいいです。曲げる……曲げるのを止める……。曲げ具合は、ほんのちょっとでいいです。こんどは人差し指を伸ばす……伸ばすのを止める……伸ばす……伸ばすのをやめるということもやってみましょう。

 どんなことに気づきましたか?人差し指を曲げる筋肉と伸ばす筋肉は、それぞれペアになっています。指を曲げたいときには、曲げる筋肉が縮みます。指を伸ばしたいときは、伸ばす筋肉が縮みます。もうちょっというと、曲げる筋肉が縮むことで指が曲がるんですが、そのときには指を伸ばす筋肉が引っ張られて元の長さに戻ります。同じようなことが、指を伸ばすときにも起こっています。

 ところで、こんなこともあったはずなんですが気づきましたか?……指を曲げるのをやめても、指は曲がったままでいられるんです。

 話を戻しましょう。

 「やわらかい指」というのは、曲げようとも伸ばそうともしていない指のことだったんです。

 でも、弓を持つには、指が曲がったり伸びたりして、指が弓を触り続けられるようにする必要があります。どうしたらよいのでしょうか?

「腕が弓毛を動かす」「指は弓身についていく」

 どうやったら、やわらかい指でボウイングをできるのか、必要なときに必要な力を使えるのかという結論を書きます。

自分のなかに生まれた音楽を
バイオリンの絃の振動として取り出すために
……
……
絃と弓毛を運動させるために腕を動かす!
右手指は弓身についていく!

 これが、ボウイングのために自分に言い聞かせている頭のなかの私のセリフ2014年1月8日正午バージョンです。

カール・フレッシュが何を言っているか

指は最も重要である。指を通じて――弓に触れるのは指だけである――指以外の腕の各部分の運動が弓身に移されるからである。従って先ず第一に弓の持ち方を考察しよう。

ヴァイオリン演奏の技法 上巻』(66〜67ページ)

書籍について

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 本記事はクラリネット奏者・ありよしなおこさんのご協力で執筆しています。ありよしなおこさんのブログキラキラ☆クラリネットを読む

-カールフレッシュの《ヴァイオリン演奏の技法》