弓の持ち方(4) 《親指の突っ張りどう直す?》私が最初にやったこと……指の使いかたを変えよう♪アレクサンダー・テクニーク研修生が読み解く【カール・フレッシュ】

2014/01/30

バイオリンの弓を持つ親指がつっぱる……
すぐ疲れる、痛くなる
音が硬い、ギコギコする
弓の返しで音をつなげにくい
《指弓》ができない

 バイオリンをはじめた頃の私は、こういう悩みがありました。そのとき10代だったボクはこんな持ち方をしていました。

 上の写真。親指が伸びきって、反り返っているのが見えます。

 この写真をとるために、3分ほどカメラと鏡の前にいたんですが、大変な思いをしました。指が動かせなくなっていくし、腕が痛くなってくるし、弓をはなした後もしばらくのあいだ指が麻痺して動かせませんでした。

指が固まって動かせない
腕が痛くなる
弓が重い

 こうした訴えのある生徒さんや後輩さんがあなたのところへやってきたら、どんなことを言ってあげられるでしょうか?

私のボウイング探求「弓に指をどう乗せるか?」

 最初の写真をもう一度見てみましょう。

 私はバイオリンをはじめてから3年くらい経った頃、あの写真のように、親指が突っ張って、ほかの指も力が入りっぱなしの《すぐ疲れる》《弓が重く感じる》持ち方をしていました。いろんな先輩が「指を鍛えなさい」「脱力しなさい」「指弓の練習をしなさい」いろんなことを教えてくれました。でも、この持ち方を変えられませんでした。でも、持ち方を変えるキッカケにはなりました。

 どうやって持ち方を変えたかというと、「小指の乗せかた」を変えたんです。先輩方は「親指を軽く曲げるんだ」と言いましたが私にはできませんでした。悩み続けていた数ヶ月間、ある日とうとう思い浮かびました。「小指が曲げられるような乗せ方をしてみよう」と気づいたんです。そして、小指が曲がるような他の指の位置関係を試しまくりました。そうやっていくうちに、「バランスが取れる指の位置関係を作ればいい」ということが自分でできるようになっていきました。

 この「小指の置きかた」について、カール・フレッシュは『ヴァイオリン演奏の技法 上巻』で次のように述べています。

小指を適切に扱うための最も重要な前提条件は小指の最先端が弓身に触れているということである。小指が平に置かれると、その可動性は最初から除外され、指弓(Fingerstrich)は不可能になる。
ヴァイオリン演奏の技法 上巻』(71ページ)

 ところで、考えてみたいことがあります。脱力した持ち方と、そうでない固まったガチガチの突っ張った持ち方は何が違うのでしょうか?どうしたら、弓の自由な動きをできるようになるんでしょうか?《小指の最先端》が弓身に触れるような持ち方を、どうやって見つけ出せるのでしょうか?

 ボウイングのための指の動きをマスターするヒントになるかもしれない実験を、アレクサンダー・テクニーク教師とのレッスンで教えてもらったので紹介します。

「弓を持つ」に隠された2つのこと

実験1. 弓を持ち上げてみよう

 いきなりですが、実験してみましょう。

 はじめにやってみて欲しいのは、弓を持ち上げることです。無造作につかんで、持ち上げてみましょう。※演奏するときの持ち方でないほうがよいです。

 持ち上げてみて、どれくらいの重さを感じますか?弓にどれくらいの長さがあるかが見えていますか?

実験2. 指先が弓へ向かって、弓を持ち上げる

 もう一度試してみましょう。こんどは、弓をテーブルに置いて手から離します。弓の大きさを見ましょう。つぎに、弓を触りたい場所へ指先を向かわせます。触ったら、その場所の手触り温度を指先で読み取ります。つぎに、弓を持ち上げるために指や手の形を変えてゆきます。さあ、これで持ち上げる準備ができました。まだ弓の重さは感じないですよね?(重さを感じていたら、もう持ち上げてしまっているんです。やり直しです!!!なんてこった!)

 さて、持ち上げる準備ができました。弓の先が動いて、弓に指がついていって持ちあがるとおもってみましょう。そのとき、弓の重さがどれくらいあるのか、指から読み取って下さい。必要なら指や手は形を変えていきましょう。形はどんなふうでもいいです。持ち上がりましたね!

 ここでちょっと思い出してほしいことがあります。ふだん演奏している時とくらべてみて、
・弓は重いですか、軽いですか?
・肩や腕、手首や指先の自由さはどうでしょうか?
・背中や首はどうですか、かたいですか、ラクですか?

「弓を持つ」2つの意味

その1. 弓を持ち上げる

 弓を持つということは、弓の形をした、長さ・太さ・重さのあるものを持ち上げるということです。持ち上げて、好きな場所へ向けて動かすということです。

その2. 弓の姿勢(向き)を変える

 弓を持つということは、弓の姿勢(向き)を変えるということです。



 この2つのことを区別することが、ボウイングでの指や腕をラクにする秘訣です。

2つの実験のタネ明かし

 先ほどの2つの実験にはそれぞれ意味があります。

 ひとつめの実験では、重さのあるものを持ち上げるだけでいいということを体感してもらいたかったのです。無造作に弓に触ることのねらいは、単純に弓というものの重さを持ち上げることをして欲しかったからです。ふだんと同じような持ちかたをしてしまうと、《持ち上げる動作》と《弓のバランス(姿勢・向き)のコントロールをする動作》とを区別するのが難しくなるのです。

 ふたつめの実験では、弓を指先の延長として扱うための手順をやってもらいました。ふたつのコツが仕込んであります。

 ひとつめのコツは、動きの先端を意識するということです。物を動かすときに、動かす相手・対象物の動きが描く線を思い浮かべるということです。動きの先端が描く線なので「動きの輪郭」と言ったほうがわかりやすい人もいるかもしれません。この「動きの輪郭」を思い浮かべると、カラダの様々なパーツがひとつの目標に向かって、動きがつながって助け合いはじめます。指や手首、肘、肩をそれぞれ思い浮かべなくてもよくなります。

 ふたつめのコツは、情報集めを意識的におこなうことです。ちょっと説明します。人間というのは、座っているときも立っているときも、小さく動きながらバランスをとっています。手に物を持つと、このバランスが崩れます。崩れたバランスを立て直すために動きかたを変えます。そのための情報集めを意識的に行なったのを思い出しましょう。「大きさを見て、持ち上げようとする指から重さを読み取る」

今回のまとめ

 弓を持つのは、弓を動かすためです。「弓を動かす」というのは、弓の位置を変えるということと、弓の姿勢を変えるということです。

 どうやって奏者が弓を動かしているかというと、弓を動かすために、奏者の指は弓身に触わります。指と弓がくっついたままで動けるように、腕全体を動かします。腕が動くことで、指とくっついた弓が奏者の周りの空間を移動したり、姿勢を変えることができます。

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 本記事はクラリネット奏者・ありよしなおこさんのご協力で執筆しています。ありよしなおこさんのブログキラキラ☆クラリネットを読む

-カールフレッシュの《ヴァイオリン演奏の技法》