【自然に呼吸すれば演奏がラクになる】あえて言います「弦楽器の演奏に《ブレス》は要らない!」

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 音を止めたり、出し始めるたびに呼吸を停止・再開させていたのでは、ボウイングやフィンガリングなど演奏で使う酸素の消費をカバーしきれなくなります。無理が積もって「ああ、今日も疲れた」という演奏経験を引き起こすのです。

 そういうナンセンスはやめませんか?

 弦楽器演奏で「ブレス」する意図はなんでしょうか?弦楽器演奏の指導者が「ブレスしなさい」というときには、何を意図しているんでしょうか?

弦楽器は、演奏と呼吸を独立させると楽になります

 最初に言っておきたいのは、「呼吸は演奏と別にできるし、そのほうが疲れなくなるよ」ということです。

 弦楽器演奏で音を作るために必要なのは、弦を振動させること、そして、より大きな共鳴を得ることです。呼吸の役割は、そのための身体活動を支えることに過ぎません。カラダを動かすと、酸素が使われたり二酸化炭素が作られたりします。そのガス交換の一環として呼吸をする必要があります。

 どんなピアニッシモでも、どんなフォルテシモでも、自由に呼吸することを許しましょう。本当は「ブレス」なんてわざわざやらなくても、その音楽ははじめられるんです。

 今回は、自由に呼吸しつつ演奏できるようになる方法、「ブレス」するのと変わらない、むしろそれ以上に効果の出る演奏動作の練習方法をご紹介します。

じつはまだ解明されていない《息を吸う仕組み》

 「息を吸う」と思ってやっていることの実態は、「《息を止める》をやめる」だったり「息を吐ききった直後に起きる現象を期待して《何かをする》」のことです。

「めいっぱい深呼吸しよう」

 たとえば、こうやって自分に言い聞かせて深呼吸するとき……つまり、ふだん無意識に済ませている呼吸の動作全てを、意識的に再現しようとするとき……どんなことがおこるでしょうか。無意識にしている呼吸とどちらが「ラクな・自然な感じ」がするでしょうか。

 意識的にする深呼吸が苦しくても、全然おかしくありません。なぜなら、呼吸を補助する筋肉は大小さまざまで、解剖学の世界で解明されていない働きさえあるからです。ですから、《意識的に呼吸をしよう》と思うこと自体が、自然な呼吸の仕方を邪魔しがちな、無理のある話なのかもしれません。

呼吸は無意識で。演奏は意識で。

呼吸は無意識に任せよう

 呼吸は、弦楽器の演奏に必要です。というか、何をするにも呼吸は必要です。

 ですから、呼吸を実現する人体の仕組みというのは巧妙に出来ています。

 何をしていても、どんな動作をしていても呼吸が中断されないように、どんなカラダの使い方をしていても呼吸が止まることがないように出来ているんです。これってすごいことです。

意識に演奏させよう

 呼吸は無意識に任せておいて、意識の持つ全処理能力は演奏に注いじゃいましょう。

 どんな音で始めるか、どんな経過にするか、どう終わらせるか。大きな筋書き、こまかな描写を、お客さんの反応に触れながらあそびましょう。目から、耳から、肌から、いろんな形で自分の周りから入ってくる情報を味わいつつ、次の瞬間の音作りに反映させていっていいのです。

無意識は、意識を助けてくれる

 呼吸をはじめ、心臓の鼓動など、意識でコントロールしなくてよい仕組みというものは、放っておいても助けてくれます。

ブレスが無いと音楽を始められない?

 もしも、「ブレス」無しでは演奏がはじめられないなら相当な重症ですよ、と私は申し上げたいところです。でも大丈夫。自由な呼吸で演奏できるようになる方法はいくつでもあります。そのうちの3つで1セットの練習方法を紹介しましょう

自由な呼吸で演奏する練習(弦楽器奏者向け)

 3つの実験的練習アイデアを紹介します。じっくり試してみてください。

 徐々に難しくなりますから、最初は単純な基礎練習の時に試してみてください。慣れてくると、指揮者が「ブレスして!」と言ってもブレスせずに、あたかもブレスしたかのような意思の疎通のとれた《良いアンサンブル》で演奏できるようになります。

その1 息を止めたまま音を出し始める

 息を止めます。止めたまま、出したい音を思い浮かべて演奏を始めます。できましたか?

 コツは、どんな振動で始めたいかを思い浮かべることです。その振動を作るために、頭が動けて体全部が付いてきて、呼吸は止めたまま、思ったような振動を作るために腕を動かしましょう。

その2 息を吐いたまま音を出し始める

 こんどは、ゆっくりと息を吐き続けます。息がまだたっぷり余裕があるうちに、音を出し始めます。

その3 ただ、音を出し始める

 呼吸がどんな状態であれ、自分が始めたいタイミングで音を出し始めましょう。吸っていようが、吐いていようが、止まっていようが関係ありません。呼吸は自然のまま、ただやりたい音楽を思い浮かべて、そのために腕を動かして演奏します。

いちろーたはこう思う

 私が見聞きしてきた中では、「ブレスして!」と聞かされる多くの場合には、「演奏に必要な準備をしなさい」という意図が込められているのではないでしょうか。

 音楽の演奏現場で聞かれる「ブレス」ってのは、いったいなんなんでしょうか。管楽器の演奏では「ブレス」=「息継ぎ」という意味があるのは理解できます。この「息継ぎ」にも、誤解があって「息を吸う」ではなくて「息を吐ききる」なんですよねー。

 最初にも書いたように、「呼吸は演奏と別にできるし、そのほうが疲れなくなる」んです。

 そして、弦楽器演奏で音を作るために必要なのは、弦を振動させること、そして、より大きな共鳴を得ることです。呼吸の役割は、そのための身体活動を支えることに過ぎません。カラダを動かすと、酸素が使われたり二酸化炭素が作られたりします。そのガス交換の一環として呼吸をする必要があるのであって、呼吸は弦楽器の音作りそのものには何の関係もないのです。

 どんなときでも、どんな場面でも、自由に呼吸することを許しましょう。本当は「ブレス」なんてわざわざやらなくても、その音楽ははじめられるんです。

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